チャプレン ヨナ 成成鍾 司祭
「 貴腐ワイン 」（ヨハネ2：1-11）

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「イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された。」
(ヨハネ2：11）

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「 貴腐ワイン 」


聖書には信じがたいお話が多くあります。今日の福音書である、キリストが水をぶどう酒に変えた奇跡物語もその一つです。昔も今もイスラエルの人たちにとってぶどう酒は、まるで味噌汁のように食事の席にあって当たり前なものです。ところが、大事な婚宴の場においてぶどう酒がなくなり、参列者だったキリストが水をぶどう酒に変え、台無しになりそうな宴会を救いました。生活に欠かせないものであるがゆえに、聖書の他のところにもぶどう酒やぶどうをモチーフにしたお話がいくつも記されています。

さて、世界には様々なワインがあります。その中にも貴腐ワインというとても希少価値の高い世界最高峰の甘口ワインがあります。一種のデザートワインである貴腐ワインは、輝く色、蜂蜜のような優しい香り、心地良い酸味と洗練された甘味が魅力だと評価され、ワインの帝王とも呼ばれています。貴腐ワインがこのように高い評価を得るようになったことには秘密がありますが、それは貴腐という名前に隠されています。貴腐は「高貴なる腐敗(noble rot)」という意味を表しています。貴腐ワインとは、貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)という特殊なカビを用いるのですが、そのカビによって腐ったぶどうがダメになるのではなく、むしろぶどうの甘さが極限まで引き出されるというのです。

味噌やチーズのようにカビがうまく利用されるわけですが、そのためには以下のような生育条件が求められます。一つは、夜と朝に霧が発生して貴腐菌の生育に都合の良い温度や湿度状態になっていること、そしてもう一つ、日中には日照が多く乾燥した天候が続くことで水分の蒸発が進行するというのですが、それがとても重要な条件になります。このような生育条件が満たされると、収穫時には糖分などのエキスが凝縮し、まるで干しぶどうのような貴腐ぶどうに変化します。そして1本の貴腐ぶどうの樹からは、他のワインの約10分の1の量であるグラス1杯分のワインしか造れない希少価値の高いワインになるのです。貴腐ワインの核心だとも言える貴腐菌は、ワイン醸造に用いられる以前には、ただ農作物を腐らせるカビに過ぎませんでした。しかし、ぶどうと出会い、腐敗と乾燥に相応しい環境に置かれることによって、悪いカビではなく貴いカビとして価値のある高貴なものになります。そしてカビによって養われた貴腐ぶどうによって、世界最高級のワインが世にもたらされたのです。たまたま発見された醸造法ですが、これは自然が生み出した奇跡だとも言えます。

人にも同じことが言えるのではないでしょうか。私たちの中には、まだ自分の可能性を開く出会いがなくて、自分を始め周りを困らせるカビ貴腐菌のような部分があります。あるいは、すでに可能性は発見されているけれども、それを具現化する環境に身を置くことができないため、まだ美しい花を咲かせられていない場合もあると思います。では皆さんは、自分自身のこと、また自分が属している共同体や組織についてどのように思っているのでしょうか。今の状態がどうであろうとも、仮に周りや自らの評価が良くないとしても、私たちには貴腐ワインの生みの親とも言える貴腐菌のように、何よりも尊い存在として高貴に用いられる可能性があるということを忘れないようにしてください。そして自分だけの奇跡を起こしてください。



＜福音書＞ ヨハネによる福音書 2章1～11節


1三日目に、ガリラヤのカナで婚礼があって、イエスの母がそこにいた。 2イエスも、その弟子たちも婚礼に招かれた。 3ぶどう酒が足りなくなったので、母がイエスに、「ぶどう酒がなくなりました」と言った。 4イエスは母に言われた。「婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」 5しかし、母は召し使いたちに、「この人が何か言いつけたら、そのとおりにしてください」と言った。 6そこには、ユダヤ人が清めに用いる石の水がめが六つ置いてあった。いずれも二ないし三メトレテス入りのものである。 7イエスが、「水がめに水をいっぱい入れなさい」と言われると、召し使いたちは、かめの縁まで水を満たした。 8イエスは、「さあ、それをくんで宴会の世話役のところへ持って行きなさい」と言われた。召し使いたちは運んで行った。 9世話役はぶどう酒に変わった水の味見をした。このぶどう酒がどこから来たのか、水をくんだ召し使いたちは知っていたが、世話役は知らなかったので、花婿を呼んで、 10言った。「だれでも初めに良いぶどう酒を出し、酔いがまわったころに劣ったものを出すものですが、あなたは良いぶどう酒を今まで取って置かれました。」 11イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された。それで、弟子たちはイエスを信じた。」