聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2024年10月13日(聖霊降臨後第21主日)(2024/10/15)

チャプレン ヨナ 成成鍾 司祭
「 欠けている一つ 」(マルコ10:17-27)

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「子たちよ、
神の国に入るのは、
なんと難しいことか。

金持ちが神の国に入るよりも、
らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」

(マルコ10:24-25)

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「 欠けている一つ 」


 一人の青年がいました。何をして金儲けをしたのか分かりませんが、若いわりに相当金持ちでした。かなり誠実で有能な青年だったようです。そのような彼がキリストのところに走り寄ってひざまずき、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるのかと尋ねました。もしかたら、彼は弟子になりたくてキリストを探していたかもしれません。キリストは、彼に律法の掟を知っているのかとお聞きになりました。彼は知っているだけではなく、子どもの頃からすべて守ってきたと答えました。するとキリストは、彼を見つめ、慈しんで「あなたに欠けているものが一つある。」(21節)と言われました。そして持っている物を貧しい人々に施すように、そうすれば救われると教えられました。ところが、残念なことに金持ちの青年はキリストのその言葉に顔を曇らせ、悩みながら立ち去りました。それでキリストは、「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通るほうがまだ易しい。」(25節)と語られました。
 
 長年の人生経験がある方はお分かりになると思いますが、私たちが生きるために必要とされているもの、例えば金や家など形のあるものから家族や命など形を超えているものまでも、本質を突き詰めてみますとすべては神様から与えられているものなのです。つまり、すべては神様のものであって、私たちはそれをこの世にいる間に一時的に授かっているだけなのです。執着したとしてもあの世に持っていくことができるものは何一つありません。それゆえ、執着するのではなく、むしろ手放すことによって、心の中にある見えない針の穴を通れるようになり、永遠の命が約束されている神の国へ入ることができるようになるのです。
らくだが針の穴を通るというたとえ話は聖書についての理解があまりない方にも知られて、キリスト者の場合は日曜学校の頃からよく聞いているお話です。しかし、この物語は実際に世に存在する金持ちが天の国に入るのはらくだが針の穴を通ることより難しい、という内容として誤解されることもあります。この物語の焦点は、金持ちという存在だけの話ではありません。救いに至らないということは、お金や財産を沢山持っている金持ちだからなのではなく、何かに執着しているからなのです。この世での人生のために一時的に与えられているものを自分のものだと勘違いし、それらのことを手放して神の国や永遠の命を選択しようとしないことが原因になるわけです。それは、愚かな猿が壺の中にあるものを握り締めて手を離さないために、その壺から手が出せなくなっている状態に喩えられます。そういう意味で、救いとは心の手で握っているものを手放すことから始まると言えます。

 キリストは金持ちの青年に「あなたには欠けているものが一つある」と言われましたが、その一つのことが彼のすべてでした。彼はその一つのことを手放すことができなかったので、永遠の命を得て救われるチャンスを逃してしまいました。救いこそが人生をかけるべきすべてだとも言えますが、彼はその一つのことを手放さず心の手で握っていたために、すべてを失ってしまったのです。誰にでも手放したくないものがあります。人によってお金、学歴、名誉、仕事、家族、趣味などそれぞれ違いますが、救いを妨げている「欠けている一つ」、心の手で強く握っている一つを持っているわけです。その一つのことに救いがかっているとしますと、その一つはすべてになります。言うまでもないことですが、救いとは神様から与えられます。神様は、私たちに救いのために一つのことを手放すように求めておられます。では、いかがでしょうか。あなたにとってその一つのこと、執着して手放せない一つのこととは何なのでしょうか。


<聖書>マルコによる福音書10:17-27

17イエスが旅に出ようとされると、ある人が走り寄って、ひざまずいて尋ねた。「善い先生、永遠の命を受け継ぐには、何をすればよいでしょうか。」 18イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。 19『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、奪い取るな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」 20すると彼は、「先生、そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。 21イエスは彼を見つめ、慈しんで言われた。「あなたに欠けているものが一つある。行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」 22その人はこの言葉に気を落とし、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。
23イエスは弟子たちを見回して言われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。」 24弟子たちはこの言葉を聞いて驚いた。イエスは更に言葉を続けられた。「子たちよ、神の国に入るのは、なんと難しいことか。 25金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」 26弟子たちはますます驚いて、「それでは、だれが救われるのだろうか」と互いに言った。 27イエスは彼らを見つめて言われた。「人間にできることではないが、神にはできる。神は何でもできるからだ。」

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