聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

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2024年7月21日(聖霊降臨後第9主日)(2024/07/22)

チャプレン ヨナ 成成鍾司祭
「 マザー・テレサ効果 」(マルコ6:30‐44)

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イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、
天を仰いで賛美の祈りを唱え、
パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、
二匹の魚も皆に分配された。
(マルコ6:41)

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<マルコ6:30-44>

さて、使徒たちはイエスのところに集まって来て、
自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。

イエスは、「さあ、あなたがただけで人里離れた所へ行って、
しばらく休むがよい」と言われた。

出入りする人が多くて、
食事をする暇もなかったからである。

そこで、一同は舟に乗って、
自分たちだけで人里離れた所へ行った。

ところが、多くの人々は彼らが出かけて行くのを見て、
それと気づき、すべての町からそこへ一斉に駆けつけ、
彼らより先に着いた。

イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て、
飼い主のいない羊のような有様を深く憐れみ、
いろいろと教え始められた。

そのうち、時もだいぶたったので、
弟子たちがイエスのそばに来て言った。

「ここは人里離れた所で、時間もだいぶたちました。
人々を解散させてください。
そうすれば、自分で周りの里や村へ、
何か食べる物を買いに行くでしょう。」

これに対してイエスは、
「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」
とお答えになった。

弟子たちは、「わたしたちが二百デナリオンものパンを買って来て、
みんなに食べさせるのですか」と言った。

イエスは言われた。

「パンは幾つあるのか。見て来なさい。」

弟子たちは確かめて来て、言った。

「五つあります。それに魚が二匹です。」

そこで、イエスは弟子たちに、皆を組に分けて、
青草の上に座らせるようにお命じになった。

人々は、百人、五十人ずつまとまって腰を下ろした。

イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、
天を仰いで賛美の祈りを唱え、
パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、
二匹の魚も皆に分配された。

すべての人が食べて満腹した。

そして、パンの屑と魚の残りを集めると、
十二の籠にいっぱいになった。

パンを食べた人は男が五千人であった。





<メッセージ>

「 マザー・テレサ効果 」

チャプレン ヨナ 成成鍾司祭


イスラエル北部のタブハ(Tabgha)には「パンと魚の奇跡の教会(Church of Multiplication of the Loaves and the Fishes)」があります。キリストが五つのパンと二匹の魚で奇跡を行ったと言われる場所に建てられた教会です。教会の祭壇には、パンが入った籠とそれを挟むように魚が描いてある綺麗なモザイク画があります。ところが、良く見ますとそこに魚は二匹ありますがパンは五つではなく四つしかありません。それには何か意図が感じられます。

多くの人々は、キリストが「わたしが命のパンである。わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決して渇くことがない。」(ヨハネ6:35)と語られたことから、足りない一つのパンはキリストのことを意味すると解釈します。ごもっともなことでありますが、私はもう一つの解釈も考えねばならないと思います。教会は聖餐式の中、献金と共に聖餐に用いるパンとブドウ酒を奉献しますが、それはキリストを象徴することと同時に私たちが自己存在を捧げることを意味します。それゆえ、聖餐にあずかった後に唱える感謝の祈りの中、「天の父よ、わたしたちはみ子によって、心も体も生きた供え物として献げます」と告白するわけです。そういった意味で、足りない一つのパンは、キリストであると同時に、私たちの存在のことも指していると受け止めることができます。では私たちがパンになって誰かのために自分自身を奉献することは、いったいどういう意味なのでしょうか。
インドのカルカッタで修道会「神の愛の宣教者会」を創立して貧困層の人々のために働いて1979年にノーベル平和賞を受賞されたマザー・テレサ(Mother Teresa of Calcutta、1910-1997)の名前が付いた「マザー・テレサ効果」という言葉があります。ハーバード大学の心理学者デビッド・マクルランド(David McClelland、1917-1998)が大学医療チームと共に実験した結果、発見した効果です。学生たちにマザー・テレサが人々を労わる映像を見せ、その後学生たちの唾液を調査してみたら、映像を見る前よりも病原菌を撃退する免疫機能が高くなったというのです。自分が直接やらなくても、他者が誰かを助けたり親切にしたりしている様子を見るだけでも健康になったという報告です。

ヘルパーズ・ハイ(Helper's high)という心理学用語もあります。他者を助ける行為によって脳内からドーパミンという快楽物質が分泌されて充実感や高揚感が得られ、血圧やコレステロール数値が下がるなど身体的にも変化がもたらされる現象です。長距離を走ると次第に苦しさが増してきますが、我慢してある距離を超えると逆に快感や恍惚感が出てきます。それをランナーズ・ハイ(Runner's high)と言いますが、他者を助けたり思いやったりする行為によって心理的な充実感や身体的変化が得られるヘルパーズ・ハイという現象も科学的に実証されつつあるのです。そういった意味では、キリストの奇跡の完成のために求められる一つのパン、つまり自己存在というパンを人々に分け与えるという行為は、誰かだけではなく自分自身も生かすための行いだと言えます。それこそ本当の奇跡だと言えましょう。

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