チャプレン ヨナ 成 成鍾（ソン・ソンジョン）司祭

「 遺産　」ヨハネ20：19-23

＜ヨハネ20：19-23＞

その日、すなわち週の初めの日の夕方、
弟子たちはユダヤ人を恐れて、
自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた。

そこへ、イエスが来て真ん中に立ち、
「あなたがたに平和があるように」と言われた。

そう言って、手とわき腹とをお見せになった。

弟子たちは、主を見て喜んだ。

イエスは重ねて言われた。

「あなたがたに平和があるように。
　父がわたしをお遣わしになったように、
　わたしもあなたがたを遣わす。」

そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた。

「聖霊を受けなさい。
　
　だれの罪でも、あなたがたが赦せば、
　その罪は赦される。

だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、
赦されないまま残る。」



<メッセージ＞

某銀行が主催している「わたし遺産」という活動があります。人の心にある大切なこと、ことにヒト・モノ・コトに関することを文章にまとめ、それを未来に伝え残すという活動です。では皆さんはどのようなことを子供や孫をはじめ、未来の世代に残したいのでしょうか。遺産というものが、自分が大事にしているものを後世代の人々に伝えて共有し共感することを通して彼らが幸せな気持ちになり、また心が豊かになるものだとしますと、決して物質的なことだけではないと思います。それについてベトナム出身の禅僧として南フランスにプラムヴィレッジ瞑想センターを設立し仏教に基づいた瞑想指導、また平和と人権運動を行ったティク・ナット・ハン（1926-2022）は、詩『私たちの本当の遺産』を通してこう歌いました。

「宇宙には貴重な宝石が満ち溢れている/そのわずかを今朝あなたに捧げたい/あなたの生きるすべての瞬間こそ光り輝いて/大地と空、水と雲を内包する至宝/ただあなたが優しく呼吸するだけで奇跡は目の前に現れる/突如あなたには聴こえる/鳥たちが歌い、松の木たちの詠唱するのが/そして見えるのは咲き誇る花々、青い空、白い雲/愛しい人の笑顔、そして素晴らしい姿/地球上で誰より恵まれながらこれまであなたは/ずっと生きるために物乞い続けてきた/貧しさにあえぐ子のままであり続けるのはもう終わりにしよう/さあ帰っておいであなたへと受け継がれた偉大な遺産を受け取りなさい/私達の幸せをいつくしみ他の皆へと捧げよう/たった今のこの瞬間を愛そう/絶え間なく続く苦しみを手放して/この腕にしっかりと命を抱きしめよう」

ティク・ナット・ハンによりますと、私たちにはすでに素晴らしい遺産が与えられています。それゆえ、恵まれている私たちがただ優しく息を吸ったり吐いたりするだけで与えられている遺産に気づくようになります。だから彼は、世間で価値があると言われているものを求めて世をさまよう必要はなく、存在の中心とも言える魂の家に戻って、今のこの瞬間を愛そうと歌っています。多くの先人たちも語られましたように、本当に価値のあるものは所有よりは存在の領域にあり、後世代に伝え残す大事な遺産もそのような観点で理解することが求められるのではないかと思います。

本当に価値のあるもの、真の遺産についての考え方は、キリスト教の精神においても大事な価値として受け継がれています。今日は教会の暦で聖霊降臨日という大きな祝日です。キリストは天に昇られる際に、ご自分の代わりとして地上に残される私たちを守り導いてくださる聖霊を送ってくださると約束されたのですが、その通りに聖霊が降ってきました。聖霊はキリストが私たちのために与えてくださった真の遺産として、今も私たちを守り真理へと案内してくれています。聖霊の原語は「息・風」なので、私たちが優しく呼吸を整えることだけで、絶え間なく続く苦しみから解放されて今のこの瞬間を生きることができるように、さらには私たちが至宝に囲まれて生きている存在であることを悟らせてくれます。聖霊こそ命そのもの、掛け替えのない遺産なのです。