司祭　アンデレ　松山健作

「恐れから喜び、そして聖霊の授与」
【ヨハネによる福音書２０章１９節から２３節】

　「弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた」とあります。弟子たちは、イエスのさまが十字架にかけられ亡くなったことで、逃げ惑い、非常な恐れの中にいました。もし見つかれば、自分たちの命にも危険が及ぶとユダヤ人たちを恐れていたのだろうと思われます。
　私たち人間において恐れ、不安とは、常につきまとうものです。そこから解放されたいと日々思うわけですが、一つの不安が解消され、恐れから解放されたとしてもまた異なる恐れに襲われることもあります。そんな度重なる恐れ、あるいは非常にトラウマとなるような恐れは、私たちの心の扉をも塞ぐことになります。
　ヨハネによる福音書２０章１９節の「戸」は、原語で複数形によって記されています。これはただ単なる家の扉や窓だけを指すのではないだろうと思われます。弟子たちの恐れる心の「戸」である複数を示しています。つまり、弟子たちの心の「戸」には鍵がかけられ、誰にも開けることのできない状態にまで陥っていたことを象徴しています。
　そのような塞ぎ込み、頑なになり、恐れに陥った状況において、突如として「あなたがたに平和があるように」という挨拶をしながら復活のイエスさまが現れます。復活のイエスさまに出会うことで弟子たちは、恐れから喜ぶ者へと変化したことがわかります。復活という出来事は、非常な恐れの中においても希望を見出すことのできる喜びを与える出来事であることを教えています。
　さらに、イエスさまは「聖霊を受けなさい」と弟子たちに息を吹きかけられます。イエスさまの弟子とは、恐れから希望を見出し喜ぶ者へと変えられただけでなく、聖霊を受け継ぐ者として、この世に立たされたことを示しています。聖霊を受け継ぐとは、イエスさまの権能を引き継いでいくことであり、その権能とは「赦し」に関連しています。
　イエスさまは、十字架の際に弟子たちに裏切られます。けれども、復活のイエスさまの方から近づき、希望を与え、十字架から逃げ惑った弟子たちを先に赦し、愛を示されました。弟子たちが希望を見ることはできたのは、聖霊の授与とともに神の愛に包まれたことを実感することができたからこそ、恐れから解放され、再びこの世において生きる希望を見出したのでしょう。
　イエスさまが弟子たちに吹きかけられる息という聖霊は、人を新たに創造し、造り替える命の息です。復活のイエスさまに出会い、聖霊が注がれる世において、私たち自身が命与えられ、新たな創造の中に招かれる者として生きることができますように。