司祭 アンナ 三木メイ
「光の武具を身につけましょう。」【ローマ13:12】
今日から降臨節に入り、教会の新しい暦が始まります。クリスマスを迎える備えをするためのアドヴェントの期節に入りました。この時期には街中でさまざまなクリスマス・イルミネーションがキラキラと輝いているのが見られます。クリスマス・シーズンの浮き浮する気分を盛り上げる可愛い商品がデパートなどに並んでいます。しかし、降臨節第1主日の福音書は、そんな浮き浮き気分にはなれないような箇所になっています。今日の聖書日課のマタイによる福音書でも、人の子が来るのは、創世記にあるノアの物語のような洪水が襲ってくるようなものだという、かなり不吉で恐ろしい記述になっています。これからクリスマスを迎えるという時期にどうして、と感じられるかもしれません。
「アドヴェント」というのは、「到来する」「来臨する」という意味の言葉から来ていて、二つの意味が込められています。神の子・キリストが嬰児(みどりご)としてこの世に来られた、という「第1の来臨」。もう一つは、この世の終わりに再びキリストが来られるという「第2の来臨」です。どちらもキリストをお迎えする喜びの時です。教会暦での1年の最初の主日と最後の主日の聖書日課は、どちらもこの「第2の来臨」がテーマになっています。つまり、教会の暦は、「この世の終わりに備える」というテーマに始まって、同じテーマで終っているのです。それだけキリスト教にとって重要なテーマだということです。ただ少々やっかいなのは、「世の終わり」「終末」というテーマは、現代人にはかなり理解しにくいのです。聖書に記されている「終末」のヴィジョンは、いつか時が来て、神がこの世界に介入なさって、「世の終わり」のさまざまな徴が示され、キリストの再臨(再び来られる)があって、神の裁き・最後の審判があり、最終的に神の救いが完成される、という内容になっています。新約聖書が書かれた時代のこのような終末信仰について、現代の人々にどう説明したらいいのか、とても難しい課題なのですが、私は学校でキリスト教も聖書もほとんど知らない学生たちに「例えば」と前置きして、こう語っています。
人がこの世で生きていく時、何を大切にして生きるのか、何を信じてどう生きるのか、その生き方の結果が自分に返ってくる時がくる・・・例えば、勉強しないでさぼっていたら試験に落ちた、・・・これは小さい「終末」。お金を稼ぐ能力があることを示すのが人間の存在価値だと信じて頑張って働いていたら不況で失業し、自分は生きる価値のない人間になってしまった・・・中くらいの「終末」。年をとって高齢になってから自分の人生を振り返って、私の人生これでよかったのかしら、と考える時、それは一番大きな「終末」と言えるかもしれません。つまり、自分がこれまで歩んで来た人生の価値や意味が問われる時です。こういう意味の「終末」は、信仰をもつ人にも、もたない人にもやってきます。そして、世界の多くの人々が何を重要なことと考えて生きるか、それが一つの国や世界の行く先を左右して、戦争や経済格差、環境汚染や温暖化という形でその結果を引き受けなくてはならない時が来るわけです。皆さんは、そういう「終わりの日」ために、どう備えているでしょうか。聖書は、この終わりの日を迎える前に、どう備えなさいと語っているのでしょうか。
今日の福音書(マタイ24:37−44)は、終末の時が来るのはノアの洪水の時と同じだ、と語ります。洪水になる前、ノアは神さまの命令に従って大きな箱舟を作って準備をしました。しかし、その他の地上の人々は神の前に堕落の道を歩み、常に心に悪いことばかりを思い計っていて、何の備えもせずに食べたり飲んだりしていた。「その時」が来たら、二人のうち一人は連れていかれ一人は残される、というように神の審判は行われる。だから目を覚ましていなさい。キリストがいつ帰ってこられるのかはわからない、「終末」は思いがけない時にやってくるのだから・・・。そのように世の終わりの到来をいつもしっかりと心に留めておくよう警告しています。
そして使徒書(ローマ13:8−14)では、近づいてきた救いの時に備えて、闇の行いをやめて「光の武具を身につけよう」と使徒パウロが語りかけています。光の武具となるのは、「隣人を自分のように愛しなさい」という神の教えです。それが私たちを悪から遠ざけ、闇の世においても、光の中を歩むことができるように備える道なのです。その道の先には、主なる神の平和、という「終末」があります。
主イエス・キリストは、私たちのところに来てくださいます。いつかやってくる「終わりの日」「終末」を覚えて、一人ひとりの心にキリストをお迎えするための備えをいたしましょう。主の平和を祈り求めて、光の中を歩んでいきましょう。主は私たちに歩むべき道を示してくださいます。「光の武具」を身につけて歩んでいきましょう。
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