司祭　サムエル　奥 晋一郎

「イエスさまの洗礼を通して」【マタイ３：１３−１７】

　今週の福音書はイエスさまが洗礼者ヨハネからヨルダン川で洗礼を受けられる箇所、マタイ３：１３−１７です。今回は、その箇所の中でイエスさまが洗礼者ヨハネに言われた１５節「今は止めないでほしい。正しいことをすべて行うのは、我々にふさわしいことです。」に注目します。この箇所における「正しいこと」とは何でしょうか。国語辞典で「正しい」を調べますと、道理にかなっている、事実にあっている、道徳、法律、作法にかなっているという意味であると書かれていました。
　確かに、洗礼者ヨハネはイエスさまが洗礼を受けに来られた時、思いとどまらせようとしました。なぜならば、ヨハネにとってイエスさまは自分よりもはるかに優れた方で、聖霊と火で洗礼を施す方であると確信していたからです。ですから、このヨハネの行為は道理にかなっている、道徳にかなっている行為であるといえるでしょう。
　しかし、この箇所での「正しいこと」とはそのようなものではありません。この箇所における「正しいこと」とは神様の正しさ、すなわち神様の意志にかなったこと、神様の御心です。イエスさまはこのヨハネから洗礼を受けることが、神様の正しさ、神様の意志にかなったこと、神様の御心であることをヨハネに伝えるために「今は止めないでほしい。正しいことをすべて行うのは、我々にふさわしいことです。」と言われたのでした。
　そこでヨハネはイエスさまの言葉に従って、イエスさまに洗礼を授けました。イエスさまはヨハネから悔い改めの洗礼を受けるために並んでいる人々の中にあえて並んで、洗礼を受けられました。イエスさまは悔い改める必要はありません。それにもかかわらず、悔い改めを必要とする人々と共に歩むため、あえて彼らの列に並んで、ヨハネから洗礼を受けられました。彼らの悔い改めなければならない罪を引き受けるために洗礼を受けられたのでした。イエスさまは彼らを愛し、大切にするためです。そして、このことこそが、神様の正しさ、神様の意志にかなったこと、神様の御心であったからです。
　このイエスさまがヨルダン川で洗礼を受けるとき、悔い改めの洗礼を受けるために並んでいた人々の中に実は私たちも含まれています。このわたしたちの中にイエスさまがいてくださいます。私たちの弱さ、悔い改め、罪を引き受けてくださいます。
　イエスさまがわたしたちと共に歩んで、わたしたちの先頭に立ってくださっています。このことを覚え、私たちは、鳩のように天から降る神様の力である聖霊による洗礼を受けることが出来たことを感謝したいと思います。その一方で、私たちが神様の正しさ、神様の意志、神様の御心よりも自らの正しさにのみに固執して、人を傷つけてしまう時があることを礼拝、祈りの時に悔い改めることが出来ればと思います。さらに、洗礼を受けていない人に、洗礼を受けることが、神様の正しさ、神様の意志にかなったこと、神様の御心であることを伝えることが出来ればと思います。