司祭 サムエル 小林宏治
「終末に向けての希望」【ルカによる福音書第21章5節〜19節】
教会暦では、11月は一年で最後の月となります。一年の終わりを感じさせるように聖書の個所も、終末の出来事に関した箇所が選ばれています。終末という言葉を普段あまり聞くことはありませんが、聖書の中では、世の終わりという言葉で記されています。
今日の聖書の個所は、わたしたちがこの世の終わりの時に向かっていくための心構えについて語っています。
ルカによる福音書の特徴として、紀元70年以降に書かれたと言われています。この紀元70年にはローマ人によってエルサレムとその神殿が壊されるという事件がありました。従って、イエス様の預言の言葉が、初期のキリスト者の間ではすでに成就されたということになります。ゆえに、その出来事に影響されて書かれたものということができます。
聖書には、神殿の崩壊に始まり、イエスの名をかたるものが現れたり、戦争が起こったり、大きな地震が起こったり、飢饉や疫病が起こったり、迫害が起こったり、恐ろしい現象や著しいしるしが天に現れると示されています。しかし、聖書は語ります。「こういうことがまず起こるに決まっているが、世の終わりはすぐに来ない」と。これは、戦争や、大災害がすぐに世の終わりと直結していないということです。
これから起こるいろいろな出来事の中で、「惑わされないように気をつけなさい。」とイエス様は言われ、また「忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい。」と言われました。これは、恐ろしいことや不安なことが起こることを預言するということよりも、その時に与えられる喜びを、希望を持って待つようにという励ましの言葉であるように思います。この世界が、あらゆる悪の力に打ち勝ち、解放されて、新しい天と地が実現する時、まさに神の国が完成する時なのです。その時に向かって、信仰を持って生きることをイエス様は求めておられます。神様は最後まで従う者であることを望まれます。どんな困難が起こっても、恐れずに神様のみ心に従う者であることを期待されているのです。
「人はひとりでは生きてはいけない。」とはよく言われていることです。神様の愛と他の人の愛がなくては生きてはいけません。世の終わりに向けて歩みだすわたしたちは、ひとりではありません。大きな愛の中で生きています。いろいろな力、いろいろな出来事がわたしたちを惑わしても、この神様の愛を見失うことがなければ、生きていくことができるのです。