2013年7月21日      聖霊降臨後第9主日(C年)

 

司祭 テモテ 宮嶋 眞

マルタとマリア(二人の女性)【ルカによる福音書10章39〜42節】

 ルカによる福音書にしか出てこない短い話です。
 イエス様がある村に入られると、マルタという女が家に彼を迎え入れた。マルタにはマリアという妹がいて、マリアはイエス様の足元近くに座って、その言葉を聞いていました。マルタはイエス様の接待に忙しく立ち働いていたので、イエス様に「わたしの妹が、わたしにだけ接待の仕事をさせているのを気になさらないのですか。わたしを手伝うようにおっしゃってください。」と言いました。イエス様は、マルタに向かって「マルタ、マルタ」と親しく呼びかけます。そして「必要なことは一つだけです。マリアはよい方を選んだのです。それを彼女から取り上げてはならない。」と言われました。
 物語はこれだけです。
 イエス様は、決してマルタを叱っているのではありません。むしろ、忙しく立ち働くマルタに優しく呼びかけられます。「マルタ、、、マルタ、、、」。イエス様から呼びかけられたことが聖書に記録されているだけでも珍しいのですが、それが二度も呼びかけられたのは、大変珍しいことです。イエス様はマルタに何とかわかってもらおうとして声をかけているように思われます。そしてこれは見事に成功しました。現代の私たちがイエス様の言葉として知ることができるのは、このマルタへの言葉であり、イエス様のそばに座って聞いていたマリアに語りかけられた言葉ではありません。マルタはしっかりとイエス様からのメッセージを聞き取ったのです。
 当時、女性は、現代以上に隅に追いやられていたと思われます。大切な先生のお話を聞くのは男性。そのお世話をするのが女性の役割で、当たり前でした。差別的に扱われるグループの中で、お互いが非難し合ったり、足を引っ張り合ったりすることは、現代でもよくあることです。本当はそのグループの中で助け合い、支え合うことが必要なのに、分断されてしまうのです。貧しい家族の中や、社会的少数派(マイノリティー)の集団の中で、そのようなことが起ります。大変悲しいことです。
 マリアが、当時の女性としてはありえない態度、男性に交じってイエス様の足元で話を聞くという態度をとったのか、その理由はわかりません。しかし、彼女にとってはとても必要なことだったのです。そのまたとないチャンスを、てきぱきと立ち働くことのできるマルタが、非難して奪うことはならないとイエス様はおっしゃったのです。
 マルタは、自分に語りかけてくださったイエス様の言葉をしっかりと受け止めました。
 「それぞれの人に必要なことが一つある。その一つを人々は真剣に選んで生きていくのだ。人がそのようにして選んだ生き方を、むやみに壊そうとしてはならない。」