2013年6月2日      聖霊降臨後第2主日(C年)

 

司祭 ヨハネ 古賀久幸

「わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるようなものではありません」
【ルカによる福音書7章1−10】

 老兵にもかかわらず衛生兵としてフィリピン戦線に送り込まれた祖父は戦後数年して日本に帰ることができたのですが、その後はマラリアの後遺症で病に伏してばかりでした。その祖父の唯一の心の拠り所は辛うじて生き残った戦友と集うひと時でした。旅館をしていた私の家はしばしばその会場となりましたが、お酒が入っても座は崩れるようなこともなく、武勇伝とは程遠いどちらかといえばしんみりした集まりだった雰囲気だったことを子ども心に覚えています。異国のジャングルで文字通り生死を共にした人たちは復員後もそれぞれが助け合って戦後の困難を乗り切ったそうです。どれほど深く強い絆で結ばれていたのでしょうか。
 イスラエルに駐屯していたローマ軍の百人隊長にとっても部下の病いは他人事ではありませんでした。イエス様の噂を聞きつけた百人隊長はなんとか癒してくださらないものか人づてにお願いします。その話に心を動かされたイエス様は癒しの業を行うべく病人のところへ急がれますが、百人隊長は人を遣わし「あなたを自分の屋根の下にお迎えできるようなものではありません。ただひと言おっしゃってください。そしてわたしのしもべを癒してください。」と伝えたのでした。征服軍であるローマの百人隊長ならばイエス様を力づくで連れてきて治療を強要することもできるのに、彼は徹底して謙虚でありました。ここにイエス様は大いなる信仰を見てとられました。百人隊長と言う権威にあった彼は、イエス様のお言葉の権威の大きさを知っていました。百人隊長が依拠していたのは力づくで押しつける権力ではなく、病気の床に伏している部下への深い思いやりと責任感でした。だからこそイエス様のまとわれる愛の権威に深い敬意を払うことができたのではないでしょうか。地上にどれほどの権力を持っていてもイエス様を自分の屋根の下に入れることはできないことをこの武骨な軍人は知っていました。仲間への深い愛と責任、イエス様への謙遜とみ言葉への絶対的な信頼のあるところに癒しの奇跡は起こったのです。