司祭 アグネス 三浦恵子
一粒の種を大切に【マタイによる福音書第13章1−9、18−23節】
イエスさまは、たとえを話された後でこう言われました。「耳のある者は聞きなさい」と。
ギリシャ語の「聞く」と訳された言葉は、単に聞くだけではなく、聞き従うという意味に使う時があります。聞くだけではなく、それに応答するということも含まれているのです。
以前、友達が私に愚痴を言っていた事を思いだしました。「夫に話をしていても、新聞を広げながら聞くので真剣に聞いていないみたい。『きちんと聴いて頂戴』と言うと、夫は、『相槌は打たないかもしれないけど、聞いているから話を続けていいよ』と新聞を読みながら返事した」ということでした。伝える側の切実な気持ちと、聞く側の気持ちがすれ違っているようです。
イエスさまは、群集の前で、「種を蒔く人のたとえを聴きなさい」と言って種まきの様子を譬えて語られました。「良い土地に蒔かれたものは100倍の実を結ぶ」と教えています。
パレスチナの種まきは、あの「種蒔く人」の絵画のように、肩から下げた袋の中の種をつかんで歩きながら蒔くようです。私たちから見るととても大雑把のように見えますが、あとから蒔いた土地を耕すのだそうです。そうであれば、できるだけ広い土地に蒔いた方が、多くの収穫が期待されると予想されます。 石が多い箇所にも、茨が生えている箇所にも、種蒔く人は蒔くのです。
さらに神さまは蒔かれた種が実を結ぶようにと耕してくださると言えるでしょう。
不条理の中で小さくされていく人が多くいます。冤罪で苦しんでいる人がいることを知りました。希望が持てるのは、そのような人の声に耳を傾け働く人がいることです。私たちに蒔かれた種が、石だらけの土地や茨の生い茂る所で枯れてしまわないように、蒔かれた種一粒一粒を大切に、根が出るように耕したいと思います。100倍の実を結ぶには良い土地が必要とされるからです。実を付けるのには時間がかかるかもしれませんが、神さまが共に働かれ収穫を信じてくださっています。