司祭 バルトロマイ 三浦恒久
人の痛みに寄り添う神【ルカによる福音書12:32〜40】
小さい群れよ、恐れるな。あなたがたの父は喜んで神の国をくださる。(ルカによる福音書12:32)
なんとも痛ましい事件が起きました。23歳の女性が、3歳の娘と1歳の息子を育児放棄(ネグレクト)をし、死なせたという事件です。新聞報道によると、女性は今年6月下旬ごろ、2人の子どもを残してマンションを出て友人宅を転々とし、1ヶ月後にマンションに戻った時には、2人の子どもは死んでいたが、女性は遺体をそのまま放置し、再びにマンションを出たという。逮捕された女性は、警察の調べに対して、「ご飯も水も与えなければ生きていくことはできないとわかっていた。私自身が育児放棄したことによって殺してしまった」と話しているという。
ご飯も水も与えなければ生きていくことができない、だからこそ子どもには保護者が必要なのです。養育する者が必ずいなければならないのです。子どもの生活、そして、安全と安心を守る存在が必要なのです。わたしたちはこの事件を通して、助けを必要としている子どもたちのいのちが、今の社会の中で本当に守られているのかどうか、問わなければならないと思います。
ルカによる福音書の特徴的なことの一つは、貧しいものへの配慮と言うことです。御父が神の国を与えるのは、小さな者、幼児のような者に対してであり(ルカ10:21)、また、病人(ルカ11:20、10:9)、子ども(ルカ18:16)、貧しい者(ルカ6:20)に対してです。だからこそ、イエスは弟子たちに、「小さな群れよ」と呼びかけ、「あなたがたの父は喜んで神の国をくださる」と言われるのです。
かつて、主なる神はモーセに言われました。「わたしは、エジプトにいるわたしの民の苦しみをつぶさに見、追い使う者のゆえに叫ぶ彼らの叫び声を聞き、その痛みを知った。それゆえ、わたしは降って行き、エジプト人の手から彼らを救い出し、…」(出エジプト3:7〜8)。このように、イエスは、かつて神がエジプトにいるイスラエルの人々の苦しみを見、叫びを聞き、痛みを知って救い出したように、小さい者、弱い者を選ばれ、神の国をくださるのです。つまり、神は人の痛みに寄り添ってくださるお方なのです。
2人の子どもの育児放棄をして、子どもを殺してしまった女性は、結婚、出産、育児と順調な生活を送っていたようです。しかし、離婚後に、「周囲の愛情に甘えてはいけない。母親である以上、強くないと」と、2人の子どもをかかえ、自立を目指したようですがうまくいかなかったようです。実は、この女性もまた2人の子どもと同様、助けを必要としていたのではないでしょうか。
神は人の傷みに寄り添ってくださるお方です。助けを必要としている人々の苦しみを見、叫びを聞き、痛みを知って救い出してくださるお方です。その神にならって、わたしたちもまた、今助けを必要としている人々の苦しみを見、叫びを聞き、痛みを知る者でありたいと思います。