執事 サムエル 奥 晋一郎
「神様が備えてくださる」
アブラハムは答えた。「わたしの子よ、焼き尽くす献げ物の小羊はきっと神が備えてくださる。」二人は一緒に歩いて行った。(創世記22章8節)
アブラハムは神様から、息子であるイサクを連れて山に登り、イサクを焼き尽くす献げ物としてささげるように命令されました。神様との約束によって、長年連れ添ってきた妻のサラの間に生まれた息子であるイサク。アブラハムは神様の命令によって、年を取ってから与えられた息子を神様に献げなければなりませんでした。アブラハムはつらかったことでしょう。
アブラハムはそのような思いを持ちつつ、イサクと一緒に神様が指定した場所まで、歩きました。そのとき、イサクはアブラハムに「焼き尽くす献げ物である小羊はどこにいるのですか」と言います。そこで、アブラハムは「焼き尽くす献げ物の小羊はきっと神が備えてくださる」と答え、さらに山道を歩いていきます。
神様が定められた場所に着き、アブラハムは祭壇を作り、薪を並べ、息子イサクを縛りました。そして、アブラハムは刃物を取り、イサクを切り裂こうとします。その時、天の使いが呼びかけ、アブラハムは返事をします。すると、天の使いが「その子に手を下すな。あなたは主を畏れるものであることがわかった。息子ですら、ささげることを惜しまなかった」と言いました。
ちょうどその時、アブラハムが目を凝らして見ると、後ろの木の茂みに、一匹の羊が角を折られていました。そこで、アブラハムはその羊を捕まえて、イサクの代わりに焼き尽くす献げ物としてささげたのでした。
アブラハムはイサクを神様に献げなければならないという状況にあって、イサクに「焼き尽くす献げ物の小羊はきっと神が備えてくださる」と言っています。完全な答えを知っていたわけではありません。なぜ、アブラハムは神様からイサクをささげなさいといわれたにもかかわらず、焼き尽くす献げ物の小羊は神様が備えてくださるということが出来たのでしょうか。
アブラハムはイスラエルの族長です。イスラエルの信仰の父と言われています。メソポタミアのハランの地で神様に出会います。そこで神様はアブラハムに「わたしが示す地に行きなさい」と命じ、アブラハムは神様の言葉に従って旅立ちます。
旅を続けるのですから、危険な出来事もあったことでしょう。長年の旅であったので、その途中でアブラハムはうれしいことや別れといった悲しいことを経験してきたことでしょう。そのような中にあっても、アブラハムは、常に神様を信頼し、神様の命令に従って行動してきました。また、神様はアブラハムおよび一行の旅路を守り支え続けたのでした。
だからこそ、アブラハムは大切なイサクが献げものにされようとしている、切羽詰った状況にあっても、神様を信頼し、イサクに「焼き尽くす献げ物の小羊はきっと神が備えてくださる」と言うことができたのでした。こうして、神様の声を聞き、神様を信頼したアブラハムは神様より、祝福され、子孫を増やすよう約束されました。さらにアブラハムはその場所をヤーウェ・イルエ(主は備えてくださる)と名付けたのでした。
この神様がアブラハムのために備えてくださった小羊を私たちにも備えてくださっています。このように言うと本当にそうだろうかと思わされます。アブラハムのように神を畏れているだろうか。アブラハムのように大切な息子を惜しまずささげようとするほどに、日ごろから神様を信頼しているだろうか。 そのような疑問が出てきます。
そんな中にあっても、神様は私たちのためにささげる小羊を備えてくださっています。それはイエス様です。洗礼者ヨハネはイエスさまをヨハネによる福音書1章29節で次のように言っています。
ヨハネは、自分の方へイエスが来られるのを見て言った。「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ。」
神様は私たちの罪を取り除くために、献げ物の小羊としてイエス様をこの世に送ってくださいました。そして、羊がイサクの代わりに犠牲となったように、神様はわたしたちの代わりに、大切なひとり子であるイエス様を私たちの罪を取り除く小羊として、いけにえとしてくださっています。こうして、神様は最愛のひとり子であるイエスさまを十字架に架けられたのでした。
神様はイエス様をわたしたちの為に献げ物としてくださいました。アブラハムのために小羊を備えたように、わたしたちにもイエス様を私たちの罪を取り除く小羊として備えてくださっています。神様はわたしたちを救うためにイエスさまを備えてくださっています。
アブラハムがイサクを献げるという困難な状況に陥ったとしても、神様に信頼し続けました。それはアブラハムが、神様が必ず献げ物を備えてくださるという信頼、信仰を持っていたからでした。それと同じように、わたしたちも生きていく上で困難な状況に陥ったとしても、それにとどまらず、神様がイエスさまを献げ物として備えてくださっていることを感謝し、安心して大斎節の日々を過ごしていきたいと思います。
祈り
神様、あなたはひとり子であるイエスさまをこの世に送り、私たちの罪を取り除く小羊として備えてくださっています。このことに感謝し、困難な状況に陥ったとしても、それにとどまらず、神様がイエスさまを献げ物として備えてくださっていることを感謝し、安心して日々を過ごしていくことができますように。
主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン