執事　サムエル　奥　晋一郎

マタイによる福音書第１６章２３節〜２４節
イエスは振り向いてペトロに言われた。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者。神のことを思わず、人間のことを思っている。」それから、弟子たちに言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。」

　イエスさまはユダヤ北部のフィリポ・カイサリア地方に弟子たちを連れて出かけられました。その時、弟子の一人である、ペトロが「あなたはメシア、生ける神の子です」と信仰を告白しました。そこで、イエスさまはペトロを弟子の代表として、「あなたに天国の鍵を渡す」と言われ、教会を引き継ぐ人物とされました。
　その出来事の後に、イエスさまが弟子たちに伝えたお話が本日の福音書の箇所です。イエスさまは弟子たちに、自らが当時の政治的、宗教的指導者たちによって、殺され、３日後に復活することになっていると打ち明けました。そこで、ペトロはイエスさまに「主よ、そんなことがあってはなりません」とイエスさまをいさめます。その時、イエスさまは「サタン引き下がれ。あなたは神のことを思わず、人間のことを思っている」とペトロを叱りました。「サタン」という言葉は元来、敵対する者、妨げる者という意味です。この言葉は、マタイによる福音書第４章にも登場します。８節から１１節までの箇所を見てみましょう。
更に、悪魔はイエスを非常に高い山に連れて行き、世のすべての国々とその繁栄ぶりを見せて、「もし、ひれ伏してわたしを拝むなら、これをみんな与えよう」と言った。すると、イエスは言われた。「退け、サタン。『あなたの神である主を拝み、／ただ主に仕えよ』／と書いてある。」そこで、悪魔は離れ去った。すると、天使たちが来てイエスに仕えた。
　このようにイエスさまはイエスさまの行動を妨げるサタンの誘惑を拒否し、サタンを退けます。このサタンが再び、ペトロのなかに登場します。ペトロはきっと、イエスさまがこの世での支配者として君臨してくださると思っていたのでしょう。ペトロはサタンの妨げに引っかかってしまいます。そこで、イエスさまはペトロに対して、以前、サタンの誘惑を退けたように、「サタン、引き下がれ」と言ったのでした。
　イエスさまは他の弟子たちにも、ペトロと同じように分かっていないと思い続けて言います。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい」と。イエスさまは弟子たちに、このような生き方が信仰を告白する者の生き方であることを伝えました。
　この、イエスさまの発言を聞いた弟子たち、ことにペトロはどのように生きていったでしょうか。いつでも、どんな時でも、信仰を告白し、完全に自分自身を棄てて、イエスさまに従っていくことができたでしょうか。
　この後に、イエスさまおよび弟子たちは、ガリラヤ地方を通り、エルサレムに向かいます。ペトロもイエスさまにずっと従っていきました。やがて、イエスさまは弟子たちに予告されたとおり、当時のユダヤの指導者たちにつかまってしまいます。その時、ペトロはどうしたでしょうか。イエスさまに従っていくことができたでしょうか。
　残念ながら、ペトロ及び他の弟子たちは再度、イエスさまを裏切ってしまいます。ペトロは「お前はイエスさまの仲間ではないのか」と問われたとき、３回もイエスさまの事を知らないと言ってしまいました。その後、イエスさまは予告どおり、十字架に架かり、復活され、弟子たちのところに現れました。その時、イエスさまはペトロを含む弟子たちを裁くことはされませんでした。なぜならば、イエスさまが弟子たちを叱ったのは、弟子たちが自己保身から開放され、神様からの祝福を受けてほしいという、思いやりだったからです。
　イエスさまがこのペトロ及び他の弟子たちに言われた言葉は私たちにも言われた言葉です。イエスさまはペトロに「サタン、引き下がれ」と言われたように、わたしたちにも言われます。私たちもペトロと同じように、礼拝でニケア信経、使徒信経を唱え、信仰を告白しています。その一方で、日々の生活を行っているときに、心の中にサタン、妨げる者が登場し、自分勝手な思いが優先してしまう時があるかもしれません。イエスさまの思いを忘れ、自分勝手な思いが優先して、他の人を悲しませてしまう時があるかもしれません。祈ることができない時があるかもしれません。
　そんな時に、イエスさまはペトロに言われたように、私たちにも「サタン、引き下がれ」と言ってくださいます。イエスさまは私たちの心の中にある妨げる者、サタンを追い出してくださっています。イエスさまがわたしたちを弟子たちと同じように、自己保身から開放され、神様からの祝福を受けてほしいという、思いやりから、「サタン、引き下がれ」と言ってくださっています。この言葉によって、私たちは再び、信仰を告白し、自己保身から開放され、神様の祝福を受け、イエスさまに従う生活、信仰生活を続けていくことができます。

祈り
神様、イエスさまがわたしたちの心の中に登場するサタンに対して「引き下がれ」と言ってくださいます。そして、わたしたちを自己保身から開放され、神様からの祝福を受けてほしいと願ってくださっています。どうか、私たち一人ひとりの信仰生活を妨げられる状態になったとしても、イエスさまが「サタン、引き下がれ」という言葉によって、私たちが再び、信仰を告白し、イエスさまに従う生活、信仰生活を続けていくことができますように。神様の祝福を受けることが出来ますように。
主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン