2007年12月23日  降臨節第4主日 (A年)


司祭 ヨハネ 石塚秀司

クリスマス  それは驚くべき神の恵み

  約2000年前の最初のクリスマス、幼子イエス様がお生まれになった頃も、愛することを忘れた大人の人たちがたくさんいて、争ったり、いじめたり、戦争をして殺しあっていました。人々の心は飢え渇いていたに違いありません。そんな中で、イザヤやエレミヤといった旧約の預言者たちが救い主の到来を語っていた約束の言葉を信じて、その成就を待ち望んでいた人たちがいました。そこにお生まれになったのが幼子イエス様です。イエス様は荒れ果てた人間の心に愛の命を回復されるために来られたまことの救い主です。そして、イエス様を救い主と信じる人々に、今もクリスマスの出来事は起こります。
 日本聖公会が新しく発行した聖歌集の540番に“Amazing grace”が取り入れられました。すでに多くの人々に愛されている曲であり、「Amazing;驚くべき、grace;神の恵み」を賛美している歌です。この曲を作った人はジョン・ニュートン(John Newton 1725−1807)という人で、こんなエピソードが語り伝えられています。
 ジョン・ニュートンはイギリスで奴隷商人を仕事としていました。彼は荒くれ者で、奴隷に対しても冷酷な男でした。言うことを聞かなかったり、逃げようとするものなら、激しい体罰を与え、命を奪うことすら当然のことのように行っていた。ところがある日、船に乗っていて、彼は大きな嵐に遭遇し死に直面します。その時初めて、彼は「神様、助けてください」と大声で叫んだのです。幸い命は助かりました。それから彼の中に変化が起こります。7歳の時に亡くなったお母さんが残していった聖書を読み始めました。やがて洗礼を受けてクリスチャンになり、その生き方はかつての奴隷商人とは180度と言って良いほど変化してしまいます。生まれ変わったのです。彼が23歳の時の体験だと言います。そんな彼が、「こんな愚かな、どうしようもない者をも神は救ってくださった」と自らの恵みの体験を歌ったのが“Amazing grace”だと言われています。その後ジョン・ニュートンは牧師となり、多くの聖歌を作り、死ぬまでこの恵みを語り伝えたと言います。
 もともとの英語の歌詞を直訳するとこういう訳になるそうです。
 「驚くほどの恵み、なんとやさしい響きか。私のようなならず者さえも救われた。かつて私は失われ、今見出された。心の目は閉ざされていたが、今は見える」。「私の心に神を畏れることを教えたのは恵み。そして、何ものをも恐れない解放をもたらしてくれたのも恵み。何と素晴らしいことか。私が最初に信じた時に現された恵み」。
 この詩では、奴隷商人として奴隷たちを冷酷に扱ってきたニュートンが、その罪の恐ろしさに気づき、そんな自分をも生まれ変わらせた「驚くほどの神の恵み」を表現しています。
 落ち葉が舞えば風の力を感じます。りんごが落ちればそれを見て大地に引っ張る力を感じた人がいました。火山が噴火すれば、地中に巨大なエネルギーがあることを知ります。同じように、一人の人間の生き方が変わればそこに目に見えない命が働いているのを、私たちは見ることができるのではないでしょうか。真実の愛はこのように人を変える力を持っています。ジョン・ニュートンだけではありません。今までに無数の人々がイエス・キリストによって真実の愛を知り、その愛に揺り動かされ、愛に生きる人へと変えられていきました。確かな事実です。いくつもその事実を見ることができる。人間を本当に変えるのは、真実な愛です。暴力でも、強制でも、見せしめでもありません。子どもを変えるのも、叱り飛ばすことではなく真実の愛です。
 その愛を人々の心に、私たちの心に回復するために、その命を与えるためにイエス様は救い主として来られました。今から2000年前、家畜小屋でマリアさんからお生まれになったのです。この恵みに私たちも生かされたい。あの人もこの人も、未来の子どもたちも生かされて欲しい。私はこのことを心から祈り求めながら、今年もクリスマスを迎えたいと思います。このホームページをご覧になったあなたにとっても素晴らしいクリスマスでありますように。