らくだの印籠                 主教 ステパノ 高地 敬


 読んでいた本の中に、「三歩進んで二歩下がる」と、「三六五歩のマーチ」を歌うシーンがあったので、「先月の一日平均70メートルみたいなもんで、下がることもあるなぁ」と感じ入りながら、「三六五歩のマーチ」を頭の中で思い出しておりました。「じーんせー」というところでなぜか、「楽ありゃ苦もあるさぁー」とどうしても続いてしまいます。
 「人生楽ありゃ苦もあるさ/涙のあとには虹も出る/歩いてゆくんだしっかりと/自分の足をふみしめて。人生勇気が必要だ/くじけりゃ誰かが先に行く/あとから来たのに追い越され/泣くのがいやなら/さあ歩け。」
 テレビの「水戸黄門」は、見ていて気持ちがスカッとする勧善懲悪のドラマです。その上、主題歌では人生を教えられます。「人間、生きていれば山あり谷あり。いろんなことがあるけれど、負け犬になるのが嫌だったら、がんばって生きていきましょう。」その通り。聖書でも、「すべての重荷や絡みつく罪をかなぐり捨てて、自分に定められている競走を忍耐強く走り抜こうではありませんか」と教えられているし、黄門様と同じかな。
 でも、ちょっと待てよ。イエス様はエルサレムを初めから目指すのではなく、地方をぐるぐる歩いておられたでしょう。あちこち歩いて非難されたり、多分、妨害も受けられたし、十字架に架かることが、歩く目標だったでしょう。
 水戸黄門のクライマックスのように格好良くはなくて、「頭が高い!」とも言わない。紋所を見せて人を黙らせるのでもない。聖書の中では、「愛に歩む」とか「真理に歩む」とか言われていて、「お急ぎの方はお先にどうぞ」という歩き方だったのではないでしょうか。助さん格さん、それではゆっくりまいりましょう。

(教区主教)