くつわで磨く これは正しくない                 主教 ステパノ 高地 敬


 「自分だけが正しいて思てるんやろ」とうちでよく言われます。思わず、「そうや」と答えてしまいます。
 6月号の「しっぽがぬれている」には、大きな反響(三件)をいただきました。自転車に傘を取り付ける器具は、「さすべえ」と言う名前だという御指摘やら、傘を差して歩道を走っていると危ないので、「さすべえ」を推奨していると受け取られると良くないという御指摘もありました。(ホームセンターには、「さすけ」もありました。)器具そのものに問題を感じていなかったのですが、人から見るといろいろだなと考えさせられました。
 この間久しぶりに歯医者さんに行ったら歯磨き指導があって、若い女性の歯科衛生士さんの前で、冷や汗をかきながら練習しました。歯ブラシを左右に動かして磨くように言われるので、「小学校では上下にと教えられた」と言いますと、「昔はそう教えたんですね」って、そんなに昔でもないんですが。昔は正しかったことが、今では間違っている。だから、今は毎日磨けと言われるけど、歯磨きは年一回が望ましいということにそのうちきっとなります。(冗談です。ここに反応しないようにお願いします。)
 世間では、正しいことが日々変わります。今日正しくても、明日は正しくない。ですから、今の自分の意見の正しさも不確かです。自分にも、この世界のどこにも、「正しいこと」などないのかも知れません。
 イエス様は本当は正しい方だったのに、正しくない私たちの身代わりとなられました。「自分は正しいのだ」と主張しない。その代わり、すべてを自分の身に負っていく。そのお手本でもありました。私たちも、「正しさ」という不確かなものを主張しないで、「自分の責任」で意見が言えればと思います。



(教区主教)