ずいぶん前、保育園などでこんな話をしたことがあります。
ある家の壁の中にネズミさんたちが住んでいました。夜になると壁から出てきて食べ物を探します。がんばらないとなかなか見つけられません。時には虫を捕まえたり、野菜をかじったりしましたが、甘いお菓子があった時はみんなで大喜び。とっても幸せな気分で眠ることができました。 ネズミさんたちの中に、とってものんびりしたネズミさんがいました。壁から出てくる時もゆっくりですから、食べられそうなものは何にも残っていませんでしたし、甘いお菓子が見つかってみ
んなで喜んで食べているときも、知らずにどこかをのんびり歩いていたりしました。「お前はのんびりだからそんなことになるんだ。損ばっかりしてて、そんなのでいいの?もっとシャキッとしなきゃ」とほかのネズミさんに言われたりしましたが、別に気にもなりませんでした。壁の中でみんなが楽しく歌ったりするとき、のんびりしたネズミさんはいつも何だか仲間はずれのようでしたが、「いつかおなかいっぱい食べられたらいいな」と一人で楽しく夢を見ているようでした。 ある日、家の人がネコを連れてきました。どこかから借りてきたようです。ネズミさんたちは、「大変だ。食べ物を探しに壁を出たら、すぐに捕まってしまう」と心配して話していました。二日たち三日たち、みんなおなかはペコペコ。でも、壁からは出られません。そんな時、のんびりしたネズミさんは、「さあ、おなか減ったし、出てって何か探そ」と、壁から出て行きます。他のネズミさんたちはみんなしんどくてうずくまっていて、それを止めることはできませんでした。のんびりしたネズミさんが壁から出たその時、「ドン、ドスン」、ものすごく大きな音がして、それからネコが向こうに歩いていくのが分かりました。その後、家の中は静まりかえり、次の日にはネコもいなくなったようです。 また夜になってみんなは壁から出て、前のように食べ物を探しました。のんびりしたネズミさんはどこにもいませんでした。みんなのためにいなくなったことをみんな知っていましたが、のんびりしたネズミさんのために何にもできないことも知っていました。ただ、のんびりしたネズミさんは、みんなと一緒にいた時よりももっと大切なものとして、みんなの心の中にいつまでも残りました。 おしまい。 「のんびりした」=「他の人とは違った魅力を持った」人とすれば、そんな人が2000年前のクリスマスに生まれたのでした。生まれた赤ちゃんが、人とは違った魅力のためにそんなことになるとは、当時だれも思いませんでした。ただ、その方が生まれてからいなくなられるまでよりも、その後もっともっと人々の心の中に大切な方として残ったのでありました。