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ARVs(抗レトロウィルス薬)が無料で配布されることになりました。
ARVsを使うとHIV感染が進行してエイズになるのを遅らせ、感染した人々がより健康に過ごすことができます。これは毎日一生飲まなければならず、大変高価な薬で、日本円にして毎月数万円かかります。このためにHIVにかかった人々はこの薬を買うことができなかったのですが、全世界に4千万人いるHIV感染者のうち、サハラ以南のアフリカに住む2千5百万人のHIV感染者に援助をしようという世界的な運動によって、アフリカに無料のARVsや、より安いインド製などのARVsが届くようになってきました。
ウガンダでも、外国の寄付により昨年4月頃から首都のカンパラに住むHIV陽性者の一部に無料のARVsが投薬されるようになりました。しかし、チオコのような田舎にはまだまだ届きませんでした。
今年になって、政府から、チオコ病院へ60人の成人と15人の小児に無料のARVsが届けられることになりました。
子どものARVsは子ども達の体重にしたがって正確に飲む量が決まりますので、普通シロップの形のARVsを使います。これはなかなか手に入りにくく、今のところ政府からそれが届くのを待っています。
成人のARVsはすでに届いており、今年2月から成人のHIV陽性者のための専門外来が始まりました。数回の診察のあと、すでに成人の患者さんはARVsを始めています。小児のHIV専門外来ももうすぐ始まります。
ARVsを始める時期は、HIV感染によって起きるある種のリンパ球(CD4と呼ばれます)がどの程度減っているかによって決まります。しかしこのCD4テストをするには一回日本円にして2千円くらいかかり、病院の予算ではこの検査を無料にすることはできません。そのため、小児に関しては、HIV陽性児訪問診療の基金からその検査料を支払うことにしました。
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地域に住む HIV陽性者と陽性児を見つけだす取り組み
ウガンダにはIRCU(Inter Religious
Council
of Uganda)という組織があります。これはウガンダのプロテスタントとカトリックとギリシャ正教を主に、イスラム教も加わっている各宗教の協議会です。この協議会が、HIV陽性児訪問診療の基金によってHIV陽性児がサービスを受けているチカムロ・サブカウンティー(サブカウンティーというのは郡をいくつかに分けた単位です)の他に5つのサブカウンティーから、400人の成人と小児のHIV陽性者を検査で見つけることにしました。しかし、彼らの予算では、この新しく見つかった患者さんの治療をする予算がありません。
このため、この新しく見つかったHIV陽性児が、チカムロ・サブカウンティーに住むHIV陽性児に準じたサービスを受けられるように、HIV陽性児訪問診療の基金で、無料の外来治療、チオコ病院に来るまでの交通費、貧しい家庭への食料配布が受けられるようにしました。
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チカムロ・サブカウンティーのHIV陽性児へのサービスの改善
チカムロ・サブカウンティーのHIV陽性児は今まで、無料の訪問診療、食物の配給、無料の外来と入院診療のサービスを受けてきました。このサービスによって子ども達はより健康に過ごし延命をすることができます。しかし、ARVsが使えないこともあり、彼らはあまり長く生きることができません。日本ではすべての子ども達が特に義務教育の間は全員学校へ行くのが当然とされ、そのような環境から登校拒否といった問題が出ていますが、ウガンダのように多くの子ども達が学校に行きたいのに経済的、家庭的な理由で行けないという社会もあります。また、HIV陽性の子ども達の多くは両親を亡くしており、祖母やその他の親戚に預けられ、あまり細やかな世話を受けることができません。預けられた家庭では経済的な問題に加えてHIV陽性児があまり長く生きられないという諦めによって無駄にお金を使わないようにしようという考えのために、HIV陽性児は小学校に行かせてもらえず、一日中家にいたり、家事の手伝いのためといって牛追いなどをさせられている子ども達が少なからずいます。
あまり長く生きられない子ども達だからこそ、その生きている時間を子ども達がよりよく生きられるように、訪問診療を受けている子ども達26人の中から学校に行けていない12人の子ども達に、学費をこのプログラムから出すことにしました。一人あたり年間90アメリカドルかかりますが、これで授業料の他、教材、制服、靴などが買えます。
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何人かの子どもたちの様子
カト
ウガンダでは双子の子供が生まれたとき、最初に生まれた男の子をワシム、2番目に生まれた男の子をカト、最初に生まれた女の子をバビリエ、2番目に生まれた女の子をナカトと名付けます。
カトは双子で2番目に生まれた男の子です。両親はエイズで亡くなっていてお祖母さんと双子の兄のワシムと暮らしています。カトは10才になるのですが、HIV感染のために体の発達が遅れ7才くらいにしか見えません。兄のワシムはHIV陰性で、カトより頭一つ以上背が高く元気で腕白な子どもです。カトの訪問診療は2002年から始めています。早めに病気の治療をし、栄養価の高い食物を届けることにより比較的健康に過ごしてきました。しかし、カトは今年一月に肺炎を起こし入院しました。3週間ほどしていったん退院したのですが、2月の中旬に訪問すると肺炎が再発していました。高齢のお祖母さんが、カトにきっちりと薬を飲ませずあまり衛生状態にも気を配っていないこと、そしてカトの免疫状態が徐々に低下してきていることが原因だと思われました。カトは2月に再入院し肺炎や肺結核、途中で合併した髄膜炎の治療を受けて今はずいぶん元気なのですが、まだ肺に雑音が聞こえます。ARVsを使えるようになれば免疫力がよくなってもっと元気になるだろうと思います。
カトを訪問診療から連れ帰って2度目に入院したとき、当時小児科病棟を担当していた男性医師のところへカトの治療方針を話し合うために行きました。この医師にカトの入院を伝えると、彼は大変心配し「カトは僕の弟のようなものだ。」といったのに強い印象を受けました。現在私はチオコ病院では非常勤で働いているのですが、以前常勤で働いていたときに、若い医師達が病気の人々にあまり共感と同情心を持っていないことに胸を痛めていました。しかし、この男性医師は、訪問診療によってカトを定期的に診察しているうちにカトに愛情を持つようになったようです。発展途上国の医師に特権階級に属している意識があり患者さんへの共感と同情心に乏しい傾向が見られるのは、ただ患者さんと関わる機会と時間がなかっただけで、この男性医師のように患者さんとの関わりを深める機会があれば、将来工業先進国の私たちが援助に出かけなくても自分たちで自分の国の人々にきめ細やかなケアをしてくれるのではないかという希望を持ちました。
カトの入院費や食費その他の雑費や付き添い人の費用は、HIV陽性児訪問診療の基金から支払われます。
カトは病院にいるのが楽しいようで家に帰るのがいやだといいます。病院では子供を持つお母さんでもある看護婦さん達が、彼に優しく声をかけ色々と世話をしてくれるからです。彼はよく看護婦さんの一人であるジェインの家に行きます。彼と同い年くらいの男の子がいて一緒に遊ぶためです。ジェインの子どもと教会の日曜学校に行くのも楽しみで、日曜学校に行くときに履く靴を買ってくれといいます。彼はいつも家では裸足で、病院ではゴム草履を履いているからです。日本では誰もが靴を履くのは当たり前ですが、靴を履けるということがこういう社会ではそんなに大切なものだったのかと胸をつかれる思いがしました。彼も元気になったらHIV陽性児訪問診療の基金から学費が出るので、その予算から靴を買いました。彼が退屈しているので病院の近所にある小学校に連れて行きました。初め彼は小学校へ行くのに関心を持っていたのですが、いざ学校に着いて休み時間になって教室からたくさんの子どもが出てくると、とても恥ずかしがって私の後ろに隠れます。学校へ行ったことがないので、大勢の子どもに会うのが恥ずかしいのでしょう。
彼は、車が好きで、私を見ると「モトカ、モトカ(英語のモーター・カー、つまり車がなまったウガンダ語)」というので車に乗せて病院の近所を走るととても喜びます。彼の健康が回復し、ARVsを始めて、それが効果を示し、学校に行くなどしていい時を過ごし、短い時間であったとしても生まれてきてよかったと思えるときを持ってくれたらと祈っています。
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ケネス
この子は1歳半の男の子で、母親は父親と離婚しています。ケネスの姉3人はHIV陰性です。ケネスの顔には多くのイボがありました。ふつうこれはARVsを使わないとよくならないのですが、食料を届け、栄養状態がよくなることによって免疫力が上がったようで、イボがずいぶん減ってきました。ケネスは少し見ない間に背も伸び丸々と太って健康そうです。
母親は農業をしながら一人で4人の子どもを育てており、自分もHIV陽性でチオコ病院のHIV陽性者のためのサービスを受けています。将来のことに不安があるでしょうが、定期的に病院が訪問し、食物が届けられ、物質的だけでなく精神的に支えられていることが、大きな安心の拠り所になっているようです。 |