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管区事務所だより
2005年2月25日 第193号
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□震災犠牲者の望み □インド洋大津波被災国の現状

震災犠牲者の望み

      ─阪神淡路大震災10年を経た教会の課題─
神戸教区主教 アンデレ 中村 豊
 
 阪神大震災に遭遇した神戸地域の人たちは、地割れによる断水で火災の消火作業が全くできずに燃えさかる多くの家屋を眺め、早朝から夕方まで10数機のヘリコプターや飛行機の爆音に悩まされ、朝から夜更けまで救急車、パトカーのサイレンの音に聞き耳をたて、数えることが不可能なくらいの崩壊家屋を目の当たりにしました。家を失った人たちは学校などの公共施設に殺到し体育館、教室が避難所となり、運動場は三度の食事を得るために被災者の長蛇の列ができました。2,3か月後、ダンプカー、ショベルカーの大軍が押し寄せたため通りは砂埃が舞い、瓦礫があっという間に運び去られ更地が至るところで出現しました。このようにして、わずか10数秒の強烈な揺れによって、灘の住宅地、三宮駅界隈の繁華街、国際都市・ミナト神戸のシンボルである神戸港、そして海沿いの下町を神戸は失い、6400余名の命が一瞬にして奪われてしまいました。

 震災復興のために10兆円以上のお金が投じられ、今では建物、道路などは震災前以上に立派になりました。高層の震災復興住宅には多数の被災された独居者が住んでいます。その住宅の一角に設けられたふれあい広場を訪れました。残念ながら人が常時集うといった気配は全く感じられない雰囲気がそこに漂っています。個室をあてがわれた人たちが集い談笑するために設けられたコンクリート製のテーブルと椅子は、震災で最愛の人を失い、寂しさのために冷たくなり、次第に風化しはじめた被災者の心を象徴しているようにも見えます。立派な建物を建て多くの人が居住可能な巨大な空間を人工的につくりさえすれば、ここに移り住む人は互いに交わりが深まり、以前より快適な生活が送れるのだという当初の目論見が一種の幻想であったように感じられてなりません。

 戦後神戸には生活の場を求めて多くの人が集まりました。通りにはバラックが軒を連ね、それが次第にビルとなり、下町では木造の平屋となりました。人が多く集まり必然的に街並みが形づくられてきたのです。その家の前といえば通行の邪魔になるほどの植木鉢が所狭しと並べられ、植木の世話は家人の楽しみであると共に四季折々の花は通りをいく人のこころを和ませました。夏の夕暮れ、隣近所の人たちが長いすに座り四方山話に花を咲かせていたのが、震災以前に見られた光景でした。

父や母、息子、娘、友人など6400余名を一瞬にして失ってしまった人たちは、その後新たな出会いを体験し、同じ数あるいはそれ以上の人たちと繋がりをもつことができたのでしょうか。愛するラザロを失い悲嘆にくれるマリヤとマルタを見た主イエスは涙を流され、ラザロを二人のもとに戻されました。震災により様々な苦しみを味わっている人たちの心に慰めを与える、これが震災10年目を迎えた今日でも、神戸地域の教会に科せられた大きな責任としてのしかかってきています。



インド洋大津波被災国の現状
      ─アジアキリスト教協議会の緊急会議に出席して─

管区事務所総主事 司祭 ローレンス 三鍋 裕

 

1月26日から30日までスリランカのコロンボでアジアキリスト教協議会の会議があり、私も参加しました。今回のインド洋大津波の被災国と支援国の教会の代表の情報交換と今後の対応についての話し合いです。被災国は広範囲に及び、それぞれ状況が違います。ただ忘れてはならないのは、アジアの教会の集まりですから、被災国であってもアフリカの教会は参加していませんし、津波以外の災害も続いていることです。

 スリランカ西部・南部に関して言えば、やはり大変な被害です。ただ地震ではなく津波被害ですので、被害は海岸地帯に限られます。海岸から数百メートル、あるいは数キロ、ほんの小さな地形の違いが被害を左右します。最初の仕事は犠牲者を埋葬すること、次に清掃と消毒。清掃といってもただ捨てるだけ。瓦礫とゴミの山です。こんなところにまでと驚くほど海岸から離れた土地に漁船の残骸が転がっています。

 さて、スリランカ聖公会には二つの教区がありますが、幸い直接的には大きな被害はこうむりませんでした。これは教派・宗教を問わず被災者の救援活動に当ることができるという大切な意味を持ちます。コロンボ教区が中心に活動していますが、スリランカNCCの議長はもうお一人の聖公会主教、総幹事も聖公会の司祭。小さな教会ながら大活躍しているわけです。コロンボ教区の主教様ご夫妻にお招きいただいてお話を伺いましたが、さすがにお疲れのご様子でした。津波発生から丁度1か月、出来ることはすべてした、初期の救援活動は何とか山を越えたけれども、これからどうすればよいのだろうかと考え込んでおられる時期でした。無理もないことかも知れませんが、政府の方針が決まっていないので復興支援の計画が立てられないそうなのです。

 打ち上げられた漁船に触れましたが、海岸地帯では観光産業を別にすれば住民の多くは漁民です。政府は今後海岸から百メートルないし二百メートルには建物の再建を認めないかもしれないのです。ただの二百メートルとは言えないのです。そこには他の人々が住んでいます(あるいは住んでいました)。順番に二百メートルずつ山側に移るわけではありませんから、他の人の土地を飛び越えて、もっと海岸から離れた土地しか空いていないでしょう。それまで海辺に住んでいた漁民は、海岸から遠くに住んでは漁が出来ません。昔ながらの漁の仕方ですから、毎日波と風を見ながらでないと漁にならないのです。漁がなければ魚屋さんも仕事がありません。地域の生活が崩壊します。現在は残った船、いや舟で漁をしても売れないそうです。海にはまだ大勢の遺体があるからでしょう。

 さらにインドよりは緩やかと言われますがカースト制の名残があります。漁民はどのカーストにも属さない、したがって上下の問題というより漁業がだめになったからと言って他の職業に就くのは簡単ではありません。それぞれの職業グループは他のグループに自分たちの職業を取られたくないのです。海辺の生活に戻れるのか、どうしたら舟を手に入れられるのかは大問題なのです。彼らもやっと命が助かった家族を支えなければなりませんから。

 スリランカのもう一つの問題は国内の民族間の対立です。多数を占めるシンハラ系住民と少数派のタミール系の人々の長年の対立です。言葉も宗教も違います。今は休戦協定が結ばれていますが、最近まで戦争をしていたわけです。まだ地雷も埋まっています。救援物資の配分にも「不公平」との声があります。「単に言葉の問題による情報不足」との反論もあります。ムスリムの住民もいます。コロンボの主教様も、外国の援助が特定の住民に偏ると新しい問題を起こす、この危機的な状況だからこそ宗教間の対立を招かないように細心の注意を払わなければならない、と言っておられました。この災難を、それぞれ違うけれども力を合わせて乗り越えることを通して本当の和平を生み出さなければ、悲惨な犠牲だけしか残らないと思うのです。

 北インド教会の代表にアンダマン・ニコバル教区のことを聞きましたが、通信事情が悪くってと、あまり知らないようでした。正直なところ今まであまり関心を持っていなかったのかもしれません。本土から遠いし、言語も文化も違うし。1月15日に現地入りした北インド教会総主事イーノス司祭のレポートでは、壊滅的な被害の中で人々は信仰に満ちている、野外の聖餐式(ニコバルには建物らしい建物は残っていない)に数百人が集まってくると伝えています。3か月目からは支援第2期で被災生活の中であっても教育、給水、保健衛生、モンスーンの季節の前に5000?7500世帯分の仮住居、できれば仮礼拝所などが必要になり、本格的な復興計画は7か月目以降とのことでした。

 もう一つ。バングラデシュの年配の代表の言葉。「バングラデシュでは毎年毎年台風と洪水で大きな犠牲がでている。今年は津波だっただけですよ」。なんとも物悲しい言葉でした。日本の新聞に出ていたアジア研究所の研究員が以前に聞いたという言葉。「バングラデシュでは毎年何万人もの人が台風で犠牲になっている。台風が来ないと人口が増えてしまうし、海外からの援助も来ない」。別の新聞記事ですが、2004年度の世界の大規模自然災害の死者32万人、うち約30万人がスマトラ沖地震・津波による死者。自然災害による経済的な被害は880億ドルで、日本と米国における地震や台風・ハリケーンが全体の7割以上を占める(2月18日・朝日)。死者の数と経済的な被害額のアンバランスを感じませんか。32万から30万を引いた2万が全部日本と米国としても、この2か国だけで経済的被害の7割以上とすれば恐ろしいアンバランスではありませんか。貧富の差を現してはいませんか。世界、特にアジアで一緒に生きて人々ですよ。何ができるというわけではありませんが、この問題にはちょっとこだわりたい大斎節であります。お祈りいただきたいと思います。

 ご報告の最後に、今回の会議は参加者は女性が多かった。活発でした。彼女たちの提言。「避難所にいるのは仕方がないとしても、せめてその間にコミュニティー・リーダーの育成、人権啓発、特に女性の地位についての啓発、家族計画の知識普及、保健衛生の教育、物がないからこそリサイクルという考えの普及に努めるべきではないか」。高い見識に圧倒されました。教会関係の組織で委員・役員に選出されるのは信徒・青年・女性が多いといわれますが、初老の男性聖職も正直に感心させられました。



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