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イスラエルによるパレスチナ攻撃停止に対する |
全聖公会の働きかけについて |
管区事務所事務所総主事 司祭 サムエル 輿石 勇 |
◇聖公会とパレスチナとの関係 ◇イスラエル人とパレスチナ人の紛争 ◇パレスチナ難民の発生と紛争の日常化 この1948年のイスラエルとアラブ諸国との戦争を調停するために、国連総会は決議194号を採択しました。この決議は「パレスチナ難民の帰還権」を明示するものでしたので、パレスチナ難民の問題を認めないイスラエルによって拒否されることになりました。その結果、アラブ諸国とイスラエルとの軍事的な小競り合いは日常化し、1967年にはいわゆる六日戦争が生じました。この結果、イスラエルはゴラン高原、シナイ半島、ヨルダン西岸、ガザを占領することになりました。この事態を調整するために、国連安全保障理事会が開催され、同決議242号によって、六日戦争によってイスラエルが新たに占領した地域を返還することになりましたが、問題の本質である難民については何の進捗も見られなかったようです。 難民問題に起因する戦闘が1973年にも生じました。この戦闘を停止させるため、再度国連安全保障理事会が召集され、1967年の安保理決議242号に基づく土地の境界設定を実現することが決議されました(決議338号)。 ◇オスロ合意 それとは別に、PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相との間で1993年にオスロでひそかに会談が開かれ、平和を実現するための画期的な合意に達し調印が行われました。この会議は暫定自治政府設立に関する原則を宣言するものであり、選挙の方法やイスラエルからパレスチナ合法政権への権力移譲などを含む暫定期間の在り方を既定する枠組みをも提供しました。この合意はガザやエリコからのイスラエル人の撤退などかなり詳細にわたる事項を含むものでした。しかし、その基本合意に含まれなかった事項について1995年から1999年にかけて何度かの交渉により合意や覚書が交わされました。しかし、1999年にオスロ合意の期限が過ぎましたが、多くの約束事項は実行されないままに終わりました。 ◇2000年9月以降 その後9月28日にイスラエルのリクード党党首のアリエル・シャロン氏(現首相)は突然武装したガードマンと共に、東イスラエルにあるモスリムの聖地アル・アクサ・モスクの敷地に踏み込みました。ユダヤ人の聖地である「嘆きの壁」と地続きですが、その境界はイスラエル人とアラブ人とがこれまで共に大切にしてきところです。当然のように、パレスチナ人からの投石などを主とした攻撃が起こりました。 すでにオスロ合意の過程で、パレスチナ人の党派であるハマスによる自爆攻撃が繰り返されていたそうです。それは、いわゆるパレスチナ問題の解決のためには、「パレスチナ人国家の建設」、「ユダヤ人入植地処理(土地の交換など)」、「国境線画定」、「パレスチナ難民の帰還権」、「エルサレムの帰属」の諸問題で合意されることが必要であるのに、オスロ合意はこれらの諸問題の一部を含むにすぎず、パレスチナ側が一方的に譲歩する形になっていたからでした。先述のアティーク司祭はかつて、「パレスチナ人は大げさな要求をしているのではなく、ただイスラエル人がこれまでひどいことをやって悪かった、と言ってくれれば済むことなのです」と言っていました。 しかし、2000年9月に起こったアル・アクサ事件は、とりわけ宗教という微妙な問題と関わる、エルサレムの帰属に関してイスラエル側が自分の主張を力で実現しようとする姿勢を象徴的に示すものでしたので、いわゆる「アル・アクサ・インティファーダ」を契機として、自爆攻撃が増加するのも無理もないと言うことができると思います。当然のことながら、パレスチナ人の自爆攻撃に対して数倍もの規模におよぶイスラエル軍の反撃が加えられるという悪循環がエスカレートして行きました。(この件およびこれに関連する全聖公会等の対応につきましては、2000年10月16日付け日本聖公会全教会宛の総主事書簡で詳述させて頂きました。) ◇2001年9月11日以後 本年3月に来日しました全聖公会協議会総主事のジョン・ピーターソン司祭は、「9月11日以降、聖公会は変わった」と私に言いました。私の質問に答えて同司祭はさらに、「あの事件以後、他宗教との対話が緊急の課題となって取り組むことになった」と述べました。同司祭の発言の背後には、本年1月にカンタベリー大主教を中心として開催された二つの多宗教間会議と合意文書がありました。その一つであるアレキサンドリア宣言について、ENI(エキュメニカル・ニュース・インターナショナル)02-0024(1月24日)は次のように伝えています。 ── キリスト教、ユダヤ教、モスリムの宗教指導者が今週、聖地における暴力を神の名の「冒涜」だと、声をそろえて非難した。 カンタベリー大主教ジョージ・ケアリー博士の骨折りで、エジプトの港湾都市アレキサンドリアで開催された会議の終わりに、これら指導者は宣言を発表した。(中略)この会議は、カンタベリー大主教とアルーアズハル・アルーシャリフの大イマーム(モスリムの最高指導者)で世界のスンニ派モスリムの最高指導者モハメド・サイド・タンタウィ博士との共催で行われた。 アレキサンドリア宣言はミッチェル、テネット提案に基づいて、西岸やガザ地区におけるユダヤ人入植地に新しい建物を建築するのを凍結することや、段階を踏んで戦闘停止にいたる提案を受け入れるよう勧告している。── また、このアレキサンドリア会議の直後の1月30日には、長年にわたる両宗教の学者たちによる対話の結果として、ランベス宮殿で両宗教の会議が行われました。この会議の中で、ルーアズハル・アルーシャリフの大イマーム・タンタウィ博士とカンタベリー大主教とが、両者の対話継続に関して方策も含めた合意書に調印しています(ACNS-2830)。他宗教との対話が進展しているというピーターソン司祭の発言の背後には、このようなことがあったのでしょう。 さて、9月11日の自爆攻撃で大きな苦悩と混乱に巻き込まれたアメリカでは、2月19日に「聖地で和解を実現する」と題するテレビを介しての協議会(テレカンファレンス)が開催され、特別ゲストとしてエルサレム教区のエルーアッサール主教が招かれ、パレスチナの多くの人々の声をビデオを通して伝えました。 グリスワルド総裁主教は3月6日中近東情勢に関して意見を表明し、それをコリン・パウエル国務長官に伝達しています。この表明の中で同主教は「シャロン氏のエルサレム神殿の丘訪問がイスラエル人、パレスチナ人の双方の無辜(むこ)の人々の命を損なう結果を生じました。イスラエルは安全を、パレスチナはイスラエルによる継続的占領を問題にしています。(中略)アブドラー王子の計画は解決の手段を提供するものです。私はこの提案を全関係者がユダヤ人、キリスト者またモスリムとしてアブラハムを同じ父祖とする二つの民の間の正義と永続的な平和にいたる道として受け止めるよう心から願っております。これが私の切なる祈りなのです」と書きました。しかし、ブッシュ大統領はシャロン首相と共に「テロリスト殲滅」という名のもとにパレスチナ人攻撃の手を緩めることはありませんでした。 グリスワルド主教はさらに4月1日付けで国連宛書簡を送り、パレスチナでの戦闘を即時停止するために国連平和維持軍の派遣を要請する手紙を書きました。どのような理由でブッシュ大統領が国務長官を和平のために中東に派遣するにいたったのか不明ですが、そのことが報道された直後の4月5日に、グリスワルド主教は再度ブッシュ大統領に宛て、その決断を歓迎し感謝するという書簡を送りました。同時にパウエル氏にも書簡を送り、同氏の平和実現の使命の重要性を強調し、即時停戦実現を望む旨申し述べています。また、パレスチナでキリスト教指導者たちに会見すること、アブ・エルーアッサール主教がそのような会見のお膳立てをしてくれることも書き加えられています。 この記事を書いている4月中旬、英国のカンタベリーで開催されています全聖公会首座主教会議は、中近東情勢に関して意見表明をいたしました(4月14日付ACNS2955)。この意見表明は、イスラエルが占領地域における攻撃を即時停止すること、またパレスチナ人が自爆攻撃を止めること、またパレスチナ人指導者が自爆攻撃の中止を呼びかけるよう求めています。また宗教指導者による第一次アレキサンドリア宣言を支持すること、またその宣言内容の実現に積極的に参加するという決意、を表明しています。 パウエル国務長官のシャロン首相との対談などによって、イスラエル軍がオスロ合意に基づくパレスチナ暫定自治地域から撤退する動きが生じていることは歓迎できますが、まだまだ厳しい緊張関係が続くことは明らかです。 ◇日本聖公会がパレスチナの事態に関してできること。また、しなければならないこと。 しかし、日本聖公会として何ができるか、何をすべきかを考えて見ますと、まず、戦闘状態の中に置かれているパレスチナの人々、特に聖公会を含むキリスト者たちの安否を問い、平和実現のために奔走しているアブ・エルーアッサール主教の働きを祈りの内に覚えることを表明する必要があるように思います。第2に、宗教指導者たちの平和実現の願いを集約しつつ、モスリム、ユダヤ教、キリスト教による平和実現の努力を糾合したカンタベリー大主教の働きに感謝を示すことも必要ではないかと思います。第3に、イスラエル政府に対して大きな影響力を持つ合衆国にあって、同政府や国連への働きかけを積極的に進めている米国聖公会総裁主教の働きを感謝し、今後の健闘を祈ることを表明することも必要でありましょう。第4に、国連に聖公会のオブザーバーが派遣されておりますので、私たちの思いをファーガ・マタタラヴェアに表明することができます。 しかし、以上のような意見表明が実質を伴うものになるためには、私たちの身の回りでできる平和実現の働きに参加することが求められるのは申すまでもありません。その一つの方法として、エルサレム教区の諸種の奉仕活動を支援するために募金することがあげられます。 パレスチナ人はイスラエル人から著しい差別扱いを受けているために、夥しい数の人々、特にキリスト者たち、がアメリカなどに移住したために、パレスチナ人を構成員とするキリスト教会は存亡の危機に立たされて参りました。特に、ガザと西岸地区だけで18に達する学校、病院、身体障害児施設などの運営が厳しい状況に追い込まれております。そのために、カンタベリー大主教は首座主教会議の賛同のもとに、2000年を機に「エルサレム2000」というキャンペーンをして全聖公会に募金をよびかけ、日本聖公会もそれにささやかながら応答して参りました。この募金活動も継続されなければなりません。 また、50億ドルとも70億ドルとも言われる今回の軍事攻撃による被害の復興のために膨大な費用がかかることでしょう。そのような復興支援の働きへの協力も求められると思います。 近く日本聖公会総会が開かれますので、そこでも支援に関して議されるかも知れませんが、今後とも皆様方が継続的にパレスチナに関心をお寄せくださいまして、ご協力くださいますようお願い申し上げる次第です。 《参考文献》 ・ インターネットで利用可能な国連資料 ○エルサレム教区連絡先 |
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