「もし、あなたが一年間、無人島へ行くとしたら何を持っていきますか」というアンケートを、某音楽誌がした事があります。これがクラシック音楽誌だった事もあって、"バッハのマタイ受難曲"が第一位になりました。また「クラシック音楽の中で最高、最重要だと思う曲は何でしょうか」という問いにも"マタイ"と答えています。これ等は全く普通の一般愛好家の答えなのです。その中にはマタイ伝二六・二七章を知らない人々も多く含まれている事を記憶すべきでしょう。
これはそのまま私の答えでもあります。音楽の歴史の中で最高の遺産なのです。またこの一曲をもってバッハは"音楽の父"と呼ばれるようになりました。正に宗派や宗教を超えて全人類・全世界に対して今も感動を与え続けている作品なのです。
さてバッハは受難曲を何曲書いたのでしょう。一説には五曲とも言われるのですが、私達が知っているのは「マタイ」「ヨハネ」の二曲と「マルコ」の存在ですが、「マルコ」は初演時の楽譜が失われ、研究や他の資料から復元が試みられたのですが、本当の姿は不明です。「ルカ」があればいいのですが想像の範囲です。残る一曲は「第二のマタイ」が存在したとか、しないとか。確かなのは前述の二曲のみと言うことになります。
バッハは人生の後半をドイツのライプツィヒ聖トマス教会のカントル(合唱長)として過ごしましたが、一七二七年四月十一日(四十二歳)の聖金曜日礼拝の為に「マタイ受難曲」も作曲しました。当時のルター派教会では毎年、聖金曜日に受難曲を演奏するのは恒例になっていました。
全曲は六十八曲から構成されますがマタイ伝の聖句楽曲(福音史家が担当)が二十八曲、コラール(讃美歌風で主に合唱団が担当)十三曲、レチタティーボとアリア(ソプラノ・アルト・テナー・バスの独唱が担当)二十五曲、その他二曲、という膨大なもので全曲は約三時間半もかかります。中でも五回調子を変えて歌われる有名なコラール「血潮したたる」はマタイの中心的な楽曲で長大なこの曲に統一感と色彩を与えて見事です。初演時には礼拝の中で演奏されたのですから、この礼拝はどんなに短めにみても五時間は要したでしょう。大変な事です。
さてお薦めのCDですが、何と言ってもカール・リヒター指揮の一九五八年録音(POCA2006〜8)を第一に推すべきでしょう。もう一種は最新録音で日本のキリスト教音楽の水準の高さを世界に知らしめた鈴木雅明指揮のバッハ・コレギウム・ジャパン(KICC293
〜5)の演奏で一九九九年三月に神戸松蔭女子大学チャペルでの録音です。 (ルカ梅本俊和)
2001年4月8日に行われたマタイ受難曲に聴く会のページ
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