キリスト教と大作曲家

バッハ



 ハンス・フォン・ビューロー(独・指揮者、ピアニスト)がバッハの平均律クラヴィーア曲集を旧約聖書に、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを新約聖書にたとえた話は余りにも有名ですが、ピアノを学ぶ人達ばかりでなくクラシック音楽を愛する人々、そしてジャズやポピュラー愛好家にとってもバッハを"音楽の父"と呼んで異議を申し立てる人はいないでしょう。
 大バッハ(ヨハン・セバスティアン)は一六八五年アイゼナハ(独)に生まれ、一七五〇年ライプツィヒ(独)で六十五歳の生涯を閉じるまでほとんどドイツ国内で過ごします。その生涯を分類すればおおよそヴァイマール時代(二十三〜三十二歳)、ケーテン時代(三十二〜三十八歳)、ライプツィヒ時代(三十八〜六十五歳)の三つに分けられます。中でも人生の後半を過ごしたライプツィヒでは、聖トマス教会のカントル(合唱長)としてカンタータや受難曲など不滅の教会音楽を書き続けました。
 カンタータは三百曲以上作曲されたと言われますが、現在楽譜が残されているものでは約二百曲。その内、百七十曲余りがライプツィヒで作曲されました。これらは日曜礼拝や教会暦の各祝祭礼拝に用いられましたから毎週毎週多忙をきわめ、一説では月、火、水を作曲にあて、木は各パート譜に写譜し、金、土が練習、日曜日は礼拝での演奏(本番)という繰り返しが続いたそうです。
 また本題の"クリスマス・オラトリオ"も一七三四年のクリスマスから翌年の一月六日、顕現節までの六回の礼拝のために書かれたもので、全曲は六部・六十四曲からなる膨大なものです。
 つまりオラトリオというより六曲のカンタータがひとまとめになったもので、キリスト誕生の喜びと華やかな歓喜の音楽が全体を支配していますが、全曲を通しての筋書きはありません。
 クリスマスに演奏された第一部は九曲から成り、第一曲はまず踊りだすようなティンパニーのリズム打ちから始まります。曲の冒頭がティンパニーであることに聴衆は驚くのです。また、第五曲のコラールや終曲(六十四曲目)にマタイ受難曲(一七二七年作曲)で用いられた有名なコラール「血潮したたる」が使われています。これは誕生の喜びの中に十字架上のキリストを予知したものとも解釈でき、興味深いところです。
 全曲は約二時間四十五分かかりますので通しての演奏は稀ですが、CDには何種類か録音されています。お薦めはガーディナー指揮(Ar―POCA2138〜9)か、やはり、リヒター指揮(Ar―POCA2013〜5)でしょう。
 次回は「マタイ受難曲」を中心に受難曲のお話です。
(大阪音大名誉教授・梅本俊和)





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