(2016年2月28日朝日新聞掲載記事より)
使用済み核燃料を再処理して作るウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料は、通常のウラン燃料より約9倍高価なことが、財務省の貿易統計などから分かりました。再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)などプルサーマル発電を行う原発で使われますが、高浜で使うMOX燃料は1本約9億円となっています。
プルサーマル発電は使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する国の核燃料サイクル政策の柱とされます。核兵器に転用できるプルトニウムの日本保有量(47・8トン)を増やさない狙いもありますが、国内の再処理施設は未完成なうえ、コスト面でも利点が乏しいことが浮き彫りになりました。
1本のMOX燃料で利用できるプルトニウムは多くありません。一方、燃料の値段は電気料金に反映されます。原発のコストに詳しい立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は「安価になるからリサイクルするはずなのに、MOX燃料は逆に高価で、経済的におかしい。国は商業的にも技術的にも破綻している政策を続けており、負担は国民に回ってくる」と指摘します。
そもそも、MOX燃料は当初高速増殖炉で使うはずでした。しかし原型炉もんじゅ(福井県)は実現の見通しが立っておらず、プルサーマルが核燃料サイクル政策の軸とされます。電力各社は、16~18基の原発でプルサーマル発電をすれば年間6トン前後のプルトニウムを利用できると想定しています。しかし、青森県六ケ所村の使用済み核燃料の再処理工場とMOX燃料加工工場は、稼働が大幅に遅れています。加えて、使用済みMOX燃料は建設中の加工工場で処理できず、その処分方法も決まっていません。
内閣府原子力委員会の小委員会は2012年、核燃料サイクルのコストの試算を発表しました。将来の電源に占める原子力の比率にかかわらず、使用済み核燃料を再処理せずに地下に埋める「直接処分」の方が、再処理してプルトニウムを利用するより安いとしています。
(2016年3月3日朝日新聞掲載記事より)
米政府では、サウスカロライナ州で進めていたウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場の建設を打ち切る方針を打ち出しました。核兵器の余剰プルトニウムをプルサーマルで利用する計画でしたが、総額400億ドル(約4・5兆円)ともされる費用高騰が「重荷」になっているからです。代替案として、プルトニウムをほかの物質と混ぜて捨てる「希釈処分」を検討しています。
米国が陥った苦境は「プルトニウム利用はコスト高で割に合わない」ことを改めて示すものです。費用面から考えてプルトニウムを地中に捨てざるを得ないという米国の判断は世界に影響を与えるでしょう。約100トンもつ英国もMOX燃料での利用をめざすとしながら、同時に地中に捨てる研究もしています。
「捨てる時代」が始まる中で、日本は再処理工場を新たに動かしプルトニウムをつくろうとしています。すでに50トン近くあり、主な利用先としていた高速増殖炉の開発が全く見通せないのに、です。核燃料サイクルが経済性をもたない事実から目をそむけず、原子力政策を見直すことが必要です。
日本が核燃料サイクルから手を引けないのは、やめると原発を動かせなくなる事があります。原発のプールにある使用済み燃料が「資源」から「ごみ」に変わると、捨て場を見つけない限り、プールが満杯になってしまいます。このため、すべての使用済み燃料を再処理する「全量処理」という非現実的な政策を捨てられないのです。
しかし国際的に見ても、破綻している事が明らかとなってきました。これ以上リスクや負担を増やさないためにも、国民一人一人がエネルギー事情へ関心を持ち、正しい方向を示していく事が今求められているのだと思います。