電力会社 経営再建は原発頼み

(2016年2月8日朝日新聞掲載記事より)2016年2月8日朝日

東京電力福島第一原発事故からまもなく5年。事故を収束させる見通しも立たないなか、東電は世界最大級の発電規模を持つ柏崎刈羽原発(新潟県)を再稼働させようと、地元で積極的に動いています。
―原発をコントロールする中央制御室。「地震加速度大」「原子炉スクラム」の赤い表示がともる。「確認して」と指示が飛ぶ。事故時に司令塔となる緊急時対策所では「警戒態勢を発令する」と発電所長。建屋の外では、作業員が非常用の電源車を起動し、別の作業員が消防車にホースをつなぎ込み、放水する。
「どんな状況でも対応できるよう、訓練に全力を注ぎます」。作業を担う9人が口々にそう語る。―

これは、東電が新潟県だけで流すテレビCMです。2015年6月から始まり、この訓練編を含めて5種類あります。主に、再稼働に向けて十分な準備を進めていることを訴える内容です。毎月約240回。事故後、電気を供給する関東地方でCMを原則自粛している東電としては「異例」の対応です。
そんなCMを流し始めたころ、原発がある柏崎市と刈羽村では、あちこちに東電社員の姿がありました。「ぜひ発電所の安全対策を見てください」。115人の社員が約4カ月かけて、ほぼすべての住戸となる4万戸強を訪ね歩きました。
東電がここまで再稼働にこだわる理由は明快です。柏崎刈羽が動かないと、再建が成り立たないからです。原発1基が動けば、その分、火力の燃料費を減らせるので、月に最大140億円ほど収支が改善するといいます。東電の再建計画は柏崎刈羽6、7号機の再稼働を前提にしています
地元同意のカギを握るのは新潟県知事ですが、知事の東電への不信は消えていません。新潟県は、国会や政府の事故調査委員会とは別に、専門家による技術委員会を独自につくり、福島の事故検証を続けています。7基で821万キロワットを超える世界最大級の柏崎刈羽は、福島と同じ「沸騰水型炉」です。大きな事故が起きれば、その被害は福島とは比べものにならないとされます。知事の決まり文句は「事故の検証と総括がなければ再稼働は議論しない」。東電側は2015年秋、委員会の求めに応じて、当時の社長や現地の作業員ら約30人の聞き取り調査を実施し、内容を報告しました。それでも知事の理解は得られていません。
又、再稼働に慎重な姿勢を見せる知事に対し、国は交付金減額という形で新潟県へ圧力をかけています。(詳しくは2016年1月5日赤旗新聞掲載記事についての投稿をご覧下さい
秋には知事選があります。柏崎市と刈羽村の議会は早期の再稼働を求める請願をすでに採択しました。東電の「地ならし」が選挙にどう影響するのでしょうか。答えはまもなく出ます。

 

原発事故後、全国すべての原発が止まりました。電力の需給は厳しくなる局面もありましたが、5年間で状況は変わりつつあります。
電力10社の2015年夏の電力需要(ピーク時)は、事故前の2010年夏より約13・5%減りました。企業や家庭で節電が進んだほか、新電力による供給が増えたからです。一方で「原発頼み」の経営は変わりませんでした。
原発は長く運転するほど利益を生みます。建設費などの初期投資は巨額ですが、燃料のウランは化石燃料を使う火力より安く、運転にかかる費用を抑えられます。再稼働した川内1、2号機、関西電力高浜3号機(福井県)は運転開始から約30年。原子力規制委員会に申請した26基は建設中を除くと平均25年ほど。初期投資の回収が進み、安定して利益を出す「働き盛りにあたります。震災後に追加した安全対策は2兆円超の見通しですが、各社は再稼働できれば「回収可能」と判断しています。
ただ、震災後に定められた新規制基準では、原発を新たにつくるにも、廃炉にすると定めた原則「40年」を延長して運転するにも、これまで以上の設備投資と安全対策費が必要になります。世界経済の減速で原油安が進み、原油価格に連動する液化天然ガス(LNG)価格は下落。火力の発電コストは下がりつつあります。
コスト面での原発の優位は期間限定でしかありません。原発が経営の「重荷」になった時の答えは、まだ見当たりません。