「それから”霊”はイエスを荒野に送り出した。」
マルコによる福音書1:12
「送り出した」と訳されている言葉は、普通は、「放り出すと」か「投げ出す」のような意味を持った言葉だそうで、このように丁寧に送り出したかのように使われることはほとんどないそうである。マルコによる福音書はイエスさまの荒野での滞在を受難物語の時のように受身形で表現し、マタイやルカのようにサタンとの問答はなく、野獣や天使が出てくるという独特なイエスさまの荒野での滞在をしかもごく短く描いている。イエスさまも辛い試練にあわれたこと、その試練の中では、野獣で象徴されるような辛い現実と、天使で象徴されるような神様からの見えない祝福や直ぐには気付かない恵みとが混在していたということが、著者が言いたかったことなのかもしれない。そして、イエスさまの活動開始の言葉は、皆を神様に会うために荒野に連れて行くのではなく、神様の福音が皆のところに近づいてくるというものであった。
(司祭 シモン・ペテロ 上田憲明)