総理大臣へ“要望書”を提出
新ガイドライン関連法案、日の丸・君が代の法制化、通信傍受法案……国民の論議を呼んでやまないうちに、これらの法案が次々と国会に上提されている。キリスト教の教派を越えての反対運動が展開されている中で、日本聖公会では、「日の丸・君が代」の法制化に対しては、社会正義と平和に関わる各委員会の委員長連名で総理大臣と文部大臣宛に、また「新ガイドライン関連法案」については首座主教が総理大臣宛に要望書を提出している。
以下、その全文を掲載する。宗教者からの真摯な発言を為政者どのように受け止めるのだろうか ――。
要 望書(国旗・国家の法制化について)
内閣総理大臣 小渕惠三 殿
文部大臣 有馬朗人 殿
1999年4月7日
宗教法人「日本聖公会」
総主事 輿 石 勇
天皇制・靖国問題委員会委員長 佐治 孝典
学生青年運動協力委員会委員長 野村 潔
「正義と平和」委員会委員長 柴本 孝夫
日韓協働委員会委員長 宮嶋 眞
去る2月28日、広島の県立高校の校長が、卒業式を前日に控えて自殺するという痛ましい事件が起こりました。これは文部省の強引な学習指導要綱に沿って、県教委が「日の丸・君が代」の掲揚・斉唱を学校長に強権的に求める異例の職務命令を出したために起こった悲劇的な出来事であったと考えます。
元来、憲法にも法律にも規定されていない「日の丸・君が代」を、文部省の一片の学習指導要領で、国家・国旗として社会や教育の現場で扱うよう強要し続けてきたこと自体が国家権力による不当な干渉であり、違憲行為にほかなりません。
「日の丸」は、幕末に日本船の国籍識別旗として慣習化されたものであり、「君が代」は、明治の「大日本帝国」づくりの中で、「君」即ち天皇の統治する「御代」が永遠に続き、栄えていくことを願う歌として普及化されたものであります。しかも、つい半世紀前まで「日の丸」は、日本の植民地として過酷な支配を強いられた朝鮮・台湾において、また日本軍に踏みにじられた中国を始めとする東南アジアにおいて、征服・侵略の旗として至るところではためいていたものですし、アジアの民衆にとって「日の丸」は、「流血と白骨」の象徴として今日も根強く印象づけられています。「君が代」についても、敗戦前までの侵略的天皇制国家においてこそ、それに相応しい歌であったかもしれませんが、敗戦後に日本国民が選びとった新憲法では、天皇は主権者・元首としての地位から、単なる日本国及び日本国民統合の象徴となったのであり、「君が代」の歌詞は、今日の日本の国を代表する歌としては明らかに不適切であり、時代錯誤といえるでしょう。
したがって、「日の丸・君が代」は、1945年の敗戦時において、当然廃止されるべきものでありましたが、依然として存続しつづけ、最近になっては、文部省をはじめとする国の機関が、国民の合意もなしにいよいよ強引に国旗・国歌として問答無用に強制しようとしています。このことは、日本の最高の国是である国民主権・基本的人権、民主主義の理念を踏みにじる暴挙であります。日本国憲法によれば、主権は国民にあり、日本国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利(憲法第97条)であります。この原則に矛盾し、相反する国家の恣意的な法律・規則・要領等は、憲法第98条によって「効力を有しない」ことは明白であり、このことをしっかりと認識し、遵守することは文部省をはじめ国の機関の最高の義務(憲法第99条)であると考えます。
以上のことから、政府が「日の丸・君が代」を、国旗・国歌として十分の論議も合意もなく法制化しようとすることは、日本国憲法の理念に対する意図的な挑戦であり、平和と人権と民主を大切な信念とするキリスト者として、到底容認できません。速やかに法制化の手続きを撤回するよう強く要望します。
要 望書(日米安全保障条約ガイドラインについて)
内閣総理大臣 小渕惠三 殿
昨日、日米安全保障条約ガイドラインが衆議院本会議で可決され成立いたしましたことは、イエス・キリストを平和の君として仰ぐキリスト教会の一員といたしまして誠に遺憾に存じます。今世紀、世界は二度の大戦を経験し戦争がもたらす悲惨を私たち自身が体験いたしました。それにもかかわらず、殊に、日本の戦争責任の清算も済んでいない現在この法案が提出・可決されたことはまことに残念であります。
今世紀の二度の世界戦争は、富や権力の不正な所有構造とそれを固定化しようとする邪な欲望に起因していることは申すまでもありません。遅れて近代化した日本はこの不正な所有構造の中で、新興国の権利を武力をもって主張することを余儀なくされ、今から見れば無謀とも言える戦争に突入したのでありました。今回成立いたしましたガイドラインが暗黙に前提している仮想敵は、日本の侵略のせいもあって、近代化が遅れた諸国のように見受けられます。殊に第二次大戦の被害を集中的に受けた、内外の人々の本ガイドラインに対する反応を柔軟に受け止め、近隣諸国を仮想敵として武装を強化することによって世界の不正な所有構造を擁護するのではなく、日本のかつての新興国としての経験からも、近代化の途上にあり、それゆえに国内的な富の所有の不公正に対する不満が爆発するかも知れない諸国を、同じ小さな地球に住む隣人として処遇するよう、国家指導者にお願いしたいと思います。
ガイドラインは成立いたしましたが、紀元二千年を迎えるにあたり、21世紀を平和の世紀とするため、貴職が言明しておられますように、「太陽政策」を積極的に支持され、近隣諸国の民を友人としてその困難を共に分かち合う政策を進められますようお願いし、世界の平和に寄与されますことを期待するものであります。
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