カテゴリー別アーカイブ: 新聞記事より

川内原発再稼働に対する問題点/3.火山対策に対する専門家の異論

(2015年8月12日朝日新聞掲載記事より)

川内原発再稼働について ー火山対策に専門家異論ー
川内原発再稼働について
ー火山対策に専門家異論ー

2015年8月11日に再稼働した九州電力川内原発(鹿児島県)の火山対策について、専門家からは異論が出ており、国内のみならず海外メディアでも懸念の声があります。

川内原発160㎞圏には、活発な活動を繰り返す桜島や阿蘇など39の火山があります。地質調査から、過去に巨大噴火の火砕流が原発近くまで届いていたことも分かりました。火砕流は、原発の設計で対応することが出来ない災害にあたります。
九州電力は、稼働期間中に巨大噴火が起こる可能性は十分低く、巨大噴火につながりそうな変化を観測すれば運転を止めて核燃料を運び出すとしています。しかし、巨大噴火が日本で起きるのは1万年に1回程度。観測経験がなく、前兆があっても判断できないというのが火山学者の間で広く共有されている認識です。さらに、核燃料の搬出先も未定です。

又、川内原発周辺には、過去に巨大噴火が起きたことを示すカルデラ(大きなくぼみ)が主なものだけで五つあります。
特に、川内原発から約50キロメートルと最も近くにある姶良(あいら)カルデラが噴火した場合被害は大変なものとなり、火山学者から多くの警告が出ています。
鹿児島大学の井村隆介教授(火山学)によると、
「噴火に伴う原発事故の場合、火山灰に放射性物質がくっついて、風に乗って全国に降り注ぐことになります。しかもカルデラ破局噴火の場合、日本最大の地上の火山である富士山と同じくらいの体積の降下物が飛散します。それだけの降下物が放射能を伴って日本中に降り注ぐ可能性を考えないといけません」と言っています。もしそうなれば、日本は壊滅です。

東京電力福島第一原発事故では、未曾有の大きさの津波に襲われました。私たち日本人は3.11を通し、天災は予測不可能であると身をもって学んだはずです。
私は震災を通して、人が予想出来る恐怖はたかが知れており、本当に恐ろしい事は予想を遥かに超えるものだと知りました。
今は静かに眠っている火山がいつ動き出すか誰にも分からない中、経済最優先に動き初めた原発再稼働を傍観していても良いのでしょうか?
未来の平和は、偶然の積み重ねではなく、私たちの正しい選択で創り上げていく強固なものでなければならないと思います。

 

川内原発再稼働に対する問題点/2.各種世論調査で再稼働反対が賛成を大幅に上回った中での再稼働

(2015年7月9日福島民報新聞掲載記事より)

川内原発1号機、燃料装填進む ー再稼働の流れ止まらずー
川内原発1号機、燃料装填進む ー再稼働の流れ止まらずー

2015年8月11日、国民の合意形成がないまま国内で再び原発が動きだしました。

九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働する前も、国民の間では原発への不安が消えませんでした。日本世論調査会の2015年6月の世論調査では、再稼働に「反対」が63%で、「賛成」31%を大幅に上回りました。このため政府は民意を刺激しないよう、「再稼働はあくまでも電力会社の経営判断」との姿勢を取りながら、水面下で環境づくりを進めてきました。

NHKの全国で行った世論調査では、『川内原発の再稼働に賛成ですか、それとも反対ですか。』という質問に対し、“賛成…32%”、“反対…57%”という結果が出ています。
また、『東京電力の福島第一原発事故を受けて、新しい規制基準が制定されました。あなたは、この新しい基準に適合した原発でも、住民が避難するような事故が起きるおそれがあると思いますか。それとも思いませんか。』との質問には、“あると思う…81%”、“ないと思う…10%”、さらに『原発事故に備えて各自治体が作成する避難計画について、政府は支援を行い、審査までは必要ないとしています。あなたは、このことについてどう思いますか。』という質問には、“支援で十分だと思う…8%”、“支援だけでは不十分で、避難計画を政府が審査すべきだと思う…82%”という結果が出ています。

このように国民の反対の意志が強い中で、政府は個々の原発を再稼働するかどうかの最終判断に政権は関与しないとも説明しており、あくまで事業者の判断に任せています。

(2015年8月25日朝日新聞掲載記事より)

朝日新聞社全国世論調査  川内原発の再稼働「よかった」30%「よくなかった」49%
朝日新聞社全国世論調査  川内原発の再稼働「よかった」30%「よくなかった」49%

又、川内原発の再稼働後に行われた朝日新聞社の全国世論調査(電話)では、川内原発の運転再開について尋ねると、「よかった」は30%で、「よくなかった」の49%が上回りました。原子力発電を今後どうしたらよいか質問すると、「ただちにゼロにする」が16%、「近い将来ゼロにする」が58%、「ゼロにはしない」が22%でした。

反対の世論に向き合おうとしない政権の「見切り発車」を前例にするべく、各電力会社が追随しようとしています。国民の意向を無視し、いったい誰のための原発なのでしょうか。福島原発事故の被災者の苦しみを、身をもって体験して欲しい。そうすれば誰一人として原発を肯定する人はいないと心から思います。

川内原発再稼働に対する問題点/1.避難計画の不備について

(2015年5月5日中日新聞・8月3日朝日新聞掲載記事より)


鹿児島県薩摩川内市にある九州電力川内原子力発電所1号機が2015年8月11日に再稼働しました。
東京電力福島第一原発事故を受けて、原子力規制委員会が原発推進の官庁から独立して安全対策を審査するようになり、審査を通った原発の再稼働第一号となります。
これを機に、国内でほぼ2年ぶりに「原発ゼロ」が終わりました

福島第一原発事故では、避難の混乱で入院患者や高齢者が死亡する例が相次ぎました。原発から4.6㎞離れた双葉病院では、入院患者と系列の介護施設入所者の計約230人が取り残され、搬送の混乱などで19人が死亡しました。
これを受け、国は2012年に防災重点地域を8~10㎞圏から30㎞圏に拡大。災害対策基本法などに基づく自治体向けの手引で、30㎞圏の医療機関や特別養護老人ホームなどの社会福祉施設に避難先や経路、移動手段の計画を作るよう求めました。

川内原発の30㎞圏の医療機関85施設のうち策定済みは2施設。159の社会福祉施設で計画を作ったのは15施設でした。10㎞圏では対象の全施設が計画を作りました。鹿児島県伊藤祐一郎知事は「10㎞で十分。30㎞までは不可能だ」と発言し、今年3月に計画作りを求める範囲を独自に10㎞圏に限定。10㎞以遠の施設は、事故後に風向きなどに応じて県が避難先を調整することにしました。原子力安全対策課は「国の了解を得て決めた」と言っています。

原子力規制委は「(避難計画を)評価する立場にない」(田中俊一委員長)とし、避難計画は再稼働条件になっていません。再稼働への自治体同意についても、立地する道県と市町村だけに限定。他の周辺自治体は避難計画作成を強いられながらも、再稼働に何ら影響を行使する立場にはいません。

福島第一原発事故では住民避難は30㎞圏を超える地域にも及び、様々な情報が飛び交う中で住民は混乱し、心身ともに疲弊しました。その過酷な体験が、今でもトラウマとなっているという方も多くいます。
事故当時目に見えない放射能が迫る中、国の不誠実な対応に何を信じて良いのか誰もが不安でした。避難すべきか留まるべきか、それぞれが決断を迫られました。しかし交通は麻痺、ガソリンも不足し、避難できる人と出来ない人の間で格差が生じました。その時、女性や子ども、病人など弱い立場にいる人ほど、困難な状況に迫られるのを目の当たりにしました。
今、健康被害は事故直後の被曝量が全てだと言う専門家もおり、避難しなかった事で自責の念に苦しむお母さんがいます。また、避難した事に負い目を感じている人もいます。それぞれが、自分の選択が正しかったのか今でもわからず、葛藤を抱えたまま生活しています。

避難弱者が置き去りにされたままの再稼働は、事故の教訓から学ぼうとしているとは到底思えません。「天災は忘れた頃にやってくる」ということわざがあります。私たちはいつまでも、福島第一原発事故を決して忘れてはいけないのだと思います。

 

福島の子、甲状腺がん確定1人増え104人に

(2015年9月1日朝日新聞・福島民報新聞掲載記事より)

2015年9月1日朝日新聞掲載記事
甲状腺がん確定 福島の子1人増え104人に(2015年9月1日朝日新聞掲載記事より)

東京電力福島第一原発事故による影響を調べる甲状腺検査で、今年4月から6月末までに新たに1人が甲状腺がんと診断されました。これにより、検査対象となる事故当時18歳以下だった約38万5千人のうち甲状腺がんと確定したのは合計104人となります。県検討委員会では「現時点で、放射線の影響は考えにくい」との見解を示しています。

2015年9月1日福島民報新聞掲載記事
甲状腺がん確定、1人増え6人に ー23~27年度甲状腺検査 市町村別結果を公表ー(2015年9月1日福島民報新聞掲載記事より)

この報道について、福島県で最も購読されている地方新聞『福島民報新聞』では3面に大きく取り上げられていますが、『朝日新聞』では最後の社会面に小さく掲載されているのみでした。

1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後はチェルノブイリ地方で小児、特に女児に多くの甲状腺がんが見られたことが報告されています。一般に小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、原発事故の2~3年後から急な増加が見られます。そして、被ばく時の年齢によってそのピークが異なり、0~10歳までの乳幼児・小児は被ばく7年後にピークがあり、以後漸減して、1997年以降は通常の発生率に戻っています。10~19歳の思春期では被ばく10年後にピークが見られ、2002年以後は急激に増加しますが、通常の発生率には戻っていません。
しかし、チェルノブイリ事故当初の発症者が少なかったのは、当時の検査に問題があったためとの説もあります。現在、甲状腺がんの発症が福島原発事故の影響によるとは認められていませんが、今後も甲状腺がんを発症する人が増加すれば、認めざるを得なくなるかもしれません。

(2015年9月1日福島民報新聞掲載記事より)

甲状腺検査 将来の患者数推定 ー県が新研究 健康管理に反映ー
甲状腺検査 将来の患者数推定 ー県が新研究 健康管理に反映ー

甲状腺検査をめぐっては、これまで検査結果のみが公表され、将来的な見通しなど詳細な分析はされてきませんでした。しかし、福島県の県民健康調査検討委員会や保護者から被ばく影響の解明を求める意見が相次いでいたため、福島県では甲状腺検査結果を客観的に分析し、地域ごとの発生状況について相関関係の研究を進めることに決めました。甲状腺がんの将来の患者数を予測し、今後の健康管理に反映させる意向です。

福島のお母さん達は、我が子の健康や将来について不安を抱えながら為す術がなく、県外へ避難して行った人がいる中で福島に残る選択をした自分は間違っていなかったのか、心の中で自問自答をしながら生活しています。関係者に原発関係の仕事に就く人がいる可能性や、放射能に対するそれぞれの考え方の違い、様々な利害関係から、不安を軽々しく口に出すことは出来ません。被ばくを避けるために子どもの外遊びを控えたことにより、体力的な問題を心配する声も挙がっています。

この甲状腺検査の新たな研究により、子どもと保護者の疑問が解消され、少しでも不安が払拭されることを願っています。

放射線?モミの木異変 -上に伸びない幹 福島で放医研調査-

(2015年8月29日朝日新聞掲載記事より)

放射線?モミの木異変 ー上に伸びない幹 福島で放医研調査ー
放射線?モミの木異変 ー上に伸びない幹 福島で放医研調査ー

放射線医学総合研究所で、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を強く受けた、帰還困難区域内の空間線量率が特に高い地域に自生するモミ個体群を調査した結果を解析したところ、空間線量率が低い地域の個体群と比べて形態変化の発生頻度の顕著な増加が認められました。また、空間線量率に依存してその頻度が高くなっていることがわかりました。
空間線量が最も高い大熊町(33.9μ㏜/h)で9割以上が変化、浪江町の2か所(19.6μ㏜/hと6.85μ㏜/h)では4割強、3割弱と変化率が減少するものの、北茨城市(0.13μ㏜/h)でも1割弱で変化があったそうです。
針葉樹が一般的に放射線高感受性であることは、アメリカや日本における野外放射線照射施設(ガンマフィールド)を用いて行われた樹木の放射線照射実験や、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の事例等から知られています。チェルノブイリ原発事故後の放射能汚染地域においては、ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris)とドイツトウヒ(Picea abies)の針葉樹2在来種が明瞭な生物学的障害を示したことが報告されています。
今回の研究による形態変化は貴重なデータではありますが、動物による食害や病気、冷害などによる可能性もあるので、モミの木の変化が本当に放射線の影響なのか、実験室で放射線を当ててどう変化が起きるのか確認する必要があるとのことでした。

福島県では、原発事故以来異常な成長を見せる植物について不安に感じる声が周囲から数多く聞こえてきています。

福島県いわき市の枝垂れ桜
福島県いわき市の枝垂れ桜

 

◀福島県いわき市の枝垂れ桜の木
(2013年撮影)横に広がるように葉が茂っています。

 

 

福島県いわき市の琵琶の木
福島県いわき市の琵琶の木

 

福島県いわき市の琵琶の木▶
(2013年撮影)幹に葉が覆い茂っています。

 

 

 

 

 

▲福島県いわき市のぶどう
(2012年撮影)10年以上前に植えたがそれまでは実が付いたことは無かった。原発事故後異常に茂り、初めてぶどうの実が数多く付いた。

最近富岡町の森林を見て来た人によると、上記の写真の植物と同様に、森林も異常なほどに著しく茂っているとのことでした。
福島県郡山市で暮らしている私も、震災後から道端の植物が異常に茂っている様子を見て、違和感をずっと抱いています。
このような植物の変化について研究で明らかになるには、チェルノブイリ原発事故の時のように何年もかかるのでしょう。専門家による放射線の影響を認める発表が無いなかで、植物の実際に目で見て明確に分かるほどのこうした変化が、今後人間にはどのように現れるのだろうかと常にどこかに不安を抱えながら生活しています。

増え続ける福島の原発避難者の自殺

(2015年8月22日福島民報新聞掲載記事より)

避難者の自殺 悩み解消にさらに力を
避難者の自殺 悩み解消にさらに力を

東京電力の原子力発電所の事故から5年目に入り、住民の避難が長引く中、福島県では自ら命を絶つ人が増えています。

内閣府がまとめた東日本大震災に関連した自殺者数は、平成26年までの4年間で福島県が61人と最も多く、そのほとんどが原発避難者でした。福島の場合その数は年を追うごとに増えており、宮城や岩手と比べて自殺に歯止めがかかっていません。年代別では家族を支える働き盛りの50代が17人で最も多く、次いで60代が13人、80歳以上が11人の順になっています。

避難者にとって、原発事故そのものに加え、家族の離散や見知らぬ土地での暮らし、かなわない帰還、地域の分断など、避難に伴いこれまでの生活に戻れないことが大きなストレスになっています。最近では生活再建を果たす人も目立ち始めており、人知れず孤立感を深めるなどストレス要因は増加していると言えます。

チェルノブイリ原発事故では、四半世紀以上が経った今も住民のメンタル面に影響が残っていると指摘されています。
ここ福島県郡山市でも、報道や周囲の空気から、原発事故の問題が日に日に風化してきているのを感じています。そのような中、福島から目を背けず関心を持ってくださる方に出逢うと、心が温かくなり励まされます。何か優しい言葉や物を与えられるよりも、忘れずにいてくれている事が何よりも嬉しく、感謝している自分がいます。言葉や行動も大切ですが、一番大切なのは“想うこと”であり、誰かの“想い”によって人は傷を癒されていくのだという事に改めて気付かされました。

避難者のストレスは年月を追うごとに個人的になり、より複雑化していくでしょう。
心を閉ざし、孤独に追い込まれていく人を置き去りにして、本当の『復興』といえるのでしょうか。
原発事故により傷付いた人々、その一人一人の心の声に耳を澄まし、理解しようとする気持ちを持ち続けていくことの大切さを感じています。

深刻さを増す福島第一原発事故に伴う除染廃棄物の問題

(2015年8月21・23日福島民報新聞掲載記事より)

東京電力福島第一原発事故に伴う除染廃棄物の問題が、様々な新たな問題に直面しています。

環境省では、各自治体が16年度までに除染終了を計画していることから、除染経費について今年度の4153億円から来年度は4500億円程度に増額し作業を進める考えです。中間貯蔵施設についても用地取得が遅れていることから、今年度予算758億円を来年度は1300億円に大幅に増額し、地権者との交渉などを担当する職員も増員する方針です。

除染廃棄物の仮置き場は満杯状態のため、行き場の無い廃棄物を庭に埋める、或は軒下や敷地内に保管するなどの「現場保管」が急増し、福島県内で10万箇所を超えています。
ここ福島県郡山市も例外ではありません。実際のところなかなか除染が進んでいませんが、やっと除染の順番が自宅に回ってきたと安堵しても、その際出た汚染土は自宅の庭に埋められているか、軒下や敷地内に置かれている状況です。
業者が住宅を除染後、その家の庭に深く大きな穴を掘り、ビニールシートで包んだ汚染土を埋めます。汚染土が地中に埋まった庭で、何も知らない子ども達が無邪気に遊んでいる様子を親は複雑な気持ちで見つめているのです。
市内の路上のあちこちで、ビニール袋に包まれた汚染土が置かれている風景を目にします。原発問題プロジェクト事務所付近にあるアパート軒下の汚染土保管場所で放射線量を計測してみると、2μ㏜/hありました。雨の降った次の日や風の強い日は、この数値を超えることもあります。中の汚染土から芽を出した雑草がビニール袋を突き破っています。汚染土を包んでいるビニール袋は、経年劣化に耐えられる強い素材だとは到底思えません。

さらに、東京電力福島第一原発の廃炉に伴う、大量の汚染廃棄物の処分についても見通しは立っていません。汚染廃棄物について政府は「海外のように原発敷地内に埋設処理するのが原則」との立場ですが、既に敷地内は毎日増加する汚染水の保管タンクで埋め尽くされており、廃棄物を仮置きする余裕はありません。そして、これらのタンクもいずれ汚染廃棄物として処分する必要があります。通常の廃炉でも地元の理解を得るのは難しいですが、事故の被害者である県民の理解を得るのはさらに困難が予想されます。

このように増え続ける除染廃棄物を、最終的には福島の人々が背負わされるような気がしてなりません。
豊かさを求め、その影で生み出された負の遺産には目を背け続け、たどり着くのはどのような世界なのでしょうか。
今日も汚染土が増え続ける郡山市では、未来を夢見る子ども達が汚染土の並ぶ道路を歩き、ありふれた日常が過ぎています。

今、原発避難者が本当に求めている支援とは ー損害賠償に潜む問題ー

(2015年7月30日中日新聞掲載記事より)

届け 原発被災者の叫び
届け 原発被災者の叫び

政府や東京電力は「復興」の名のもと、福島第一原発事故に伴う避難者らに対する被害賠償や住宅支援などの打ち切りを急いでいます。福島県富岡町出身者らでつくるグループは「原発被害者生活支援法」の制定を目指し、国会議員らに訴えるため、被害者の「生の声」を集めてきました。アンケートを集約した小冊子には、『こんな理不尽な扱いには耐えられない』など、好転の兆しが見えない状況に対する避難者の憤りがあふれています。

アンケートで「最もつらかったことは何か?」という質問では、「生活不安」60%、「見通しが暗い」56%、「狭い住居」55%、「家族離散」40%、「失業」33%と続いています。
現在避難指示の対象者には、一律で月額10万円の精神的損害賠償があります。アンケートではこれに対して「生活費として足りない」が87%と多数を占めています。放射線のへの恐怖から一家離散となるケースも回答者の59%を占め、離散による家計への負担も看過出来ません。
富岡町は現在、帰還困難区域と居住制限区域、避難指示解除準備区域が混在しています。自宅が富岡町内にある女性(75歳)は『自宅は準備区域にあるが、近く解体せざるをえない状態だ。しかし国は帰還困難区域のみ手厚い賠償を行い、そのほかの区域への賠償を軽んじている』と訴えています。
被害賠償では「給付」に力点が置かれていますが、被災者間で格差が生まれ人間関係に亀裂が入る状態が起こるなど、その「形態」に問題が潜んでいます。
このアンケートを実施した会の代表者は、『精神的損害賠償打ち切り後、数年にわたり、就職先の無料あっせんや標準的な収入が得られない場合差額分を国が賄うといった「自立支援」が必要である』と訴えています。

私は郡山市在住ですが、しばしば周囲の人との間で、避難者への賠償金について話題にのぼることがあります。たいがいは、賠償金を手にすることで人間関係が壊れたり、勤労意欲が損なわれ破綻している、といった内容です。福島で暮らす賠償金を支払われていない立場にいる人たちが、賠償金が本当の自立支援になっているのか疑問を抱いているのを実感しています。

原発事故後から時間の経過とともに、求められている支援の内容は刻々と変化しています。
本当の「復興」のためには、政府は避難者の置かれている状況や必要としている支援にもっと目を向ける必要があり、そして被災者自身も主張を伝えていく努力が必要なのだと思います。

広島・長崎の被曝から70年、伝えていくということ

(2015年8月4日朝日新聞掲載記事より)

反核の闘い 福島とともに ーおびえる少女は「昔の自分」ー
反核の闘い 福島とともに
ーおびえる少女は「昔の自分」ー

8月6日は、70年前に広島に原子爆弾が投下された日です。
被爆者の平均年齢は80歳となり高齢化が進み、語り部も少なくなってきています。広島市は昨年から、被爆直後の市内を撮影した映像や写真をみて、当時の模様を次代に語る「体験伝承者」の育成を始めており、被爆2世ら100人を超える人が参加しました。
風化させないために努力が必要なのは、福島も同じです。福島で暮らしていると、震災から今年で4年という短い歳月ですが、すでに風化してきているのを実感しています。

広島、長崎の悲惨な体験を語ることができる被爆者が減っていく中、朝日新聞では約2万2千人の被爆者を対象にアンケートの冊子を送り、5762人から有効回答を得ました。その回答者の7割近い人が「原発に反対」と回答しています。又、福島の原発事故の被災者に対する必要な支援として8割を超える人が「定期的な健康診断」を挙げています。
この結果から、同じ傷を受けた人だからこそ痛みをわかちあい、理解しあえるのだと思いました。

3歳の時に広島で被曝した千葉孝子(73)さんは、結婚や妊娠で差別を受け傷つき苦しんだと言います。福島の原発事故で被災した女子高校生が「子どもを産んでいいのかな」と言ったという報道に触れ、「昔の自分と同じだ」と胸が痛んだそうです。
この記事を読み、私もとても共感しました。私がいつか子どもを産み、もしその子に放射能の影響があった場合、母親としてどれだけ自分自身を責めても足りないだろうと思います。たとえ元気に生まれたとしても、成長する過程で現れるかもしれない。さらにその子の子どもや孫に影響は出ないだろうかと、親として一生不安を抱えて生きていくのだろうと思います。

広島の被爆者の声に耳を傾けていると、福島で放射能と共に生活している私たちの想いと重なる部分がとても多く、福島がこれからたどる道が見えてくるように思います。

今、福島で暮らす人たちも、年々放射能の話題を口に出さなくなってきています。しかし、この問題に深く関わり色々な事を知れば知るほど、口を閉ざし何もしないという事は罪であり加害者と同等なのではないかと次第に思うようになりました。
核を作り出したのも、核に傷つけたれたのも、私たちと同じ人間です。
核を無くすことが出来るのも、私たちなのだと思います。

九州電力川内原発1号機が本日再稼働、9月中旬に営業運転予定

(2015年8月8日・11日朝日新聞掲載記事より)

各地で記録的な猛暑が続くなかで、国内の全ての原発は止まったままにも関わらず、電力供給にはゆとりがあります。

原発を持つ電力9社が7月末に出した今年4~6月期決算では、震災後初めて経常損益がすべて黒字になりました。原発ゼロでも業績が回復傾向にある背景には、火力発電の増加、家庭や企業の節電の取り組み、電力会社以外の「新電力」の新規参入が増えたことによる大手電力需要の減少などが挙げられます。
また、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)のもと、太陽光発電の導入量がこの4年間で10倍近くに急増しました。このことから晴れた日に発電量が多くなる夏のピークに対応し、猛暑続きでも電力供給の安定に繋がっています。

太陽光ピーク時肩代わり
2015年8月8日朝日新聞掲載記事2

2015年8月8日朝日新聞掲載の橘川武郎・東京理科大大学院教授(エネルギー産業論)によると、『需給状況をみれば電力は足りており問題ない。電力不足だから原発の再稼働が必要だ、という説明はもう成り立たなくなっている。だから、電力会社は原発の燃料コストの安さなどを強調している。再稼働を進めようと、最近では電力不足をやや大げさに言っていた面もあったのだろう。』と言っています。

事故時の責任あいまい
2015年8月10日中日新聞掲載記事

本日2015年8月11日に、九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働しました。2015年8月10日中日新聞によると、川内原発周辺には大規模噴火の可能性が指摘されている火山があったり、過酷事故が起きた際の避難計画が規制委の審査対象ではなかったりと、住民からは不安の声が出ています。また、過酷事故が起きた際の責任は、国や立地自治体、電力会社を含め、どこに具体的な責任があるのかはっきりしないままです。

使用済み燃料40トン増 ー川内原発2基、再稼働でー
2015年8月3日福島民報新聞掲載記事

さらに2015年8月3日福島民報新聞によると、九州電力川内原発1・2号機の再稼働によりあらたに発生する使用済み核燃料は計約40トンに上り、貯蔵率は69%から73%前後に上昇すると見込まれるそうです。再稼働に同意した鹿児島県は、県内での最終処分を認めていません。海外のメディアでも、原発の廃炉で生じる廃棄物が今後増えることに触れ、高レベル廃棄物の最終処分政策が危機的状況にあると報じられています。

NHKの全国で行った世論調査では、『川内原発の再稼働に賛成ですか、それとも反対ですか。』という質問に対し、“賛成…32%”、“反対…57%”という結果が出ています。
また、『東京電力の福島第一原発事故を受けて、新しい規制基準が制定されました。あなたは、この新しい基準に適合した原発でも、住民が避難するような事故が起きるおそれがあると思いますか。それとも思いませんか。』との質問には、“あると思う…81%”、“ないと思う…10%”、さらに『原発事故に備えて各自治体が作成する避難計画について、政府は支援を行い、審査までは必要ないとしています。あなたは、このことについてどう思いますか。』という質問には、“支援で十分だと思う…8%”、“支援だけでは不十分で、避難計画を政府が審査すべきだと思う…82%”という結果が出ています。

朝日新聞の調べによると、全国の原発の30㎞圏にある医療機関の66%、社会福祉施設の49%が、避難先や経路、移動手段の避難計画をまだ作っていないそうです。
福島原発事故の際には、救出が遅れた病院で入院患者が体調悪化で相次いで亡くなりました。福島県内の関連死は1900人を超しています。

政府と電力会社の姿勢から、国民の意思を無視し、人命を犠牲にしても良いという本音が見えてきます。原発事故から4年半を経ている現在も、故郷を追われている人の数は約11万人に上ります。現在の福島の人々や自然の状況は、国も電力会社も十全に責任を果たさないことから、全く好転していません。むしろ、弱い人たちがますます弱くされて来ているのが実情です。さらに、福島市や郡山市など、人々が日常を営んでいる地域には、放射線量の高い「ホット・スポット」が場所を変えながら存在しています。見えない恐怖の中での生活を強いられているのです。

福島原発事故の現状と反省を踏まえ、教訓を徹底的に引き出すべきなのではないでしょうか。そして福島の惨事を経験した者だからこそ、伝えていく義務が、私たち一人ひとりにあると思います。

国民一人一人が真実を知り、意志を持ち声をあげること、そして発信していく事が今、私たちに求められているのだと思います。