(2016年3月10日朝日新聞・福島民報・赤旗新聞掲載記事より)
2016年1~2月に再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)をめぐり、大津地裁の山本善彦裁判長は2016年3月9日、福井に隣接する滋賀県の住民29人の訴えを認め、稼働中の原発2基に対して初めて、運転を差し止める仮処分決定を出しました。福島原発事故の原因が解明されていない中で、地震・津波への対策や避難計画に疑問が残ると指摘。安全性に関する関電の証明は不十分と判断しました。
決定は直ちに効力を持ち、2基のうち4号機はトラブルで既に停止中のため、稼働中の3号機を関電は10日に停止します。一方で、決定の取り消しを求める保全異議や効力を一時的に止める執行停止を地裁に申し立てる方針です。それらが認められない限り、差し止めの法的効力は続きます。
安全性の立証責任は資料を持つ電力会社側にもあるとし、十分に説明できない場合はその判断に不合理な点があると推認されるという立場をとりました。
そして東京電力福島第一原発事故の重大性を踏まえ、原発がいかに効率的でも、事故が起きれば環境破壊の範囲は国境を越える可能性すらあると指摘。安全基準は、対策の見落としで事故が起きても致命的にならないものをめざすべきだとしました。そのうえで、前提となる福島原発事故の原因究明は「今なお道半ば」と言及。その状況で新規制基準を定めた国の原子力規制委員会の姿勢に「非常に不安を覚える」とし、新規制基準や審査について「公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」と述べました。
そのうえで、高浜原発の過酷事故対策について検討しました。電力会社が耐震設計の基本とする揺れの大きさ(基準地震動)について、関電が前提とした活断層の長さは正確といえず、十分な余裕があるとは認められないと判断しました。1586年の天正地震で高浜原発のある若狭地方が大津波に襲われたとする古文書も挙げ、関電の地震・津波対策に疑問を示しました。さらに、新規制基準でも使用済み核燃料プールの冷却設備の耐震性は原子炉などに比べて低いレベルとされ、関電もプールの破損で冷却水が漏れた場合の備えを十分に説明できていないと述べました。
また、高浜原発の近隣自治体が定めた事故時の避難計画に触れ、「国主導の具体的な計画の策定が早急に必要」と指摘。「この避難計画も視野に入れた幅広い規制基準が望まれ、それを策定すべき信義則上の義務が国には発生している」と述べ、新規制基準のもとで再稼働を進めている政府に異例の注文をつけました。
高浜原発から約30~70キロ圏内に住む今回の原告住民らは、過酷事故が起きれば平穏で健康に暮らす人格権が侵されると訴え、決定もそのおそれが高いと認めました。
高浜原発はもともと敷地が狭く、福島第一原発のように汚染水を保管できる場所もありません。それだけに、炉心溶融など重大事故が起きた場合に事故対処ができるのか疑問を抱かざるをえません。避難ルートも乏しいため、大地震が起きれば救援のための車両の運行もままなりません。
福島第一原発事故からちょうど5年。裁判所の判断は、まさに原発の安全対策の弱点を突いた格好です。二度と福島のような大事故を繰り返さぬためにも、原子力規制委や関電には、裁判所が提起した疑問を正面から受け止めるとともに、誠実に答える責務があると思います。