(2015年12月22日福島民報新聞・朝日新聞掲載記事より)
東京電力福島第一原発事故後の福島県内の森林除染をめぐり、環境省は民家や農地から約20メートル以上離れた森林で除染を実施しない方針を示しました。生活圏に影響を与える森林からの放射性物質の飛散は確認されず、線量低減のため落ち葉を除去すると土砂流出などが懸念されると判断しました。
福島県の面積は全国3位であり、そのうち森林が占める割合は約7割と言われ、これも全国4位となっています。実に広大な面積になります。そして、帰還困難区域では約8割を森林が占めており、面積は約2万6000ヘクタールに上ります。原発事故による放射性物質の影響で木材生産などの営林活動は行えず、森林の荒廃が進んでいる事が大きな問題となっています。
今回示された方針に対し、県内の林業関係団体からは伐採などに従事する作業員の被ばく対策を強化するよう求める声が上がっています。
原子力規制庁が2014年11月、避難区域の森林で行った空間放射線量調査の平均値は毎時6.5マイクロシーベルトで、最も高い場所は毎時31マイクロシーベルトでした。福島県の推計では、放射性物質の自然減衰を加味しても10年後は平均2.6マイクロシーベルト、最大12マイクロシーベルトにとどまっています。これは避難指示解除の要件となる毎時3.8マイクロシーベルトを大きく上回っており、県森林組合連合会の関係者は「除染をしない森林で働く作業員の精神的不安に配慮すべき」と指摘しました。さらに、何らかの手当支給や労務単価の上乗せなど、特別な対策を講じるよう国や東電に要望する考えを示しました。
シイタケ原木の本格的な生産再開に向けて、原木林の線量低減は急務となっています。多くの産地で原木の放射性セシウムが林野庁の指標値(1キロ当たり50ベクレル)を超え、かつて全国一を誇った出荷量は平成24年には原発事故前の6%にとどまりました。県林業振興課は「除染しないと、原木林の再生がさらに遅れてしまう」と懸念しています。
林業関係者や、森林を多く抱える被災自治体では、今回の方針は住民の帰還意欲をそぎ、復興を妨げる事を懸念しています。
福島の広大な山林を除染する事が、予算や技術的に厳しい事は想像出来ます。しかし、決断を早急にせず研究開発などに力を注ぎ、解決策を探すべきなのではないでしょうか。少なくとも森林の除染に変わるあらたな方策が必須であり、苦境に立つ人々を切り捨てる事だけは許すべきではないと思います。