(2015年12月13日朝日新聞・赤旗新聞掲載記事より)
安倍総理大臣は2015年12月12日にインドのモディ首相と会談し、日本の新幹線技術の導入と共に、原子力関連技術の輸出を可能にする原子力協定の締結について「原則合意」しました。
原子力協定は、核物質や原子力関連技術の輸出入の際に軍事転用を防ぐため、利用を平和目的に限ると定めるものです。
日本は現在14の国や地域と原子力協定を締結しており、インドとの交渉は、5年前の2010年から始まりました。
インドは2032年までに原発を40基増設し、原子力の発電能力を現在の10倍以上の6300万キロワットに増やす計画です。すでに米国やフランスなどと原子力協定を結んでいますが、米仏の原子炉の圧力容器はいずれも日本製です。日本と協定を結ばなければ、米仏との協定も意味を持ちません。
ただ、インドが過去に核実験を行ったことや、NPT=核拡散防止条約に加盟していないことから、広島市と長崎市の市長が連名で「核兵器開発への転用の懸念を生じさせかねない」として協定の締結交渉そのものの中止を要請するなど、慎重な対応を求める声も少なくありません。また、国内では東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ「原発を輸出すべきではない」という声も根強くあります。
SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によれば、インドは2015年1月現在で90~110発の核兵器を持つ核保有国です。外国からの核物質・技術が核兵器開発に転用・利用される危険が懸念されています。日本からの原発輸出も結果的にインドの核兵器開発に手を貸すことにつながります。
日本側は締結にあたり、インドが軍事転用していないかどうかに関し、国際原子力機関(IAEA)の査察を認めているとして、不拡散に協力的だと説明してきました。インドが核実験をすれば、日本の協力は停止されるとも説明しています。ただ、IAEAが査察できる施設は全体の一部に限られ、インド側の申告の正しさは必ずしも担保されていません。
さらにインドは隣国パキスタンと軍事的な緊張関係にあります。状況が変化した時に核実験の再開、核軍拡に走らないという保証はありません。
たった一度でも放射能に汚染されてしまうと、自然も人も、もう決して元に戻す事は出来ません。福島第一原発の事故を起因とする放射能汚染被害が、この先何世代に亘って及ぶのかは、予想さえできていないのが実態です。今後は国内のみならず、海洋汚染として、更に世界へと広がっていくことが懸念されています。
福島原発事故の収束も見えないなかで、国内の原発推進勢力の要請に応えて核保有国への原発輸出に前のめりになる事は、決して許される事ではないと思います。