(2015年12月9日朝日新聞掲載記事より)
運転開始から40年が経過した福井県の高浜原子力発電所1号機と2号機の運転延長を巡る原子力規制委員会の審査で、課題になっている全長1000キロ以上にわたる電気ケーブルを防火シートで覆うなどとした関西電力の対策がおおむね了承されました。
新規制基準は火災対策として燃えにくいケーブルの使用を求めています。運転開始から約40年の高浜1、2号機は難燃ケーブルを使っておらず、何らかの対策で難燃ケーブルと同等の性能を証明する必要がありました。関西電力は運転期間をさらに20年延長することを目指して、原子力規制委員会の審査を受けていました。
関西電力は、ケーブルを一定の基準を満たした防火シートで覆ったり、長時間、高圧の電流が流れるケーブルなどは新しく燃えにくいものに取り替える方針を示し、規制委員会の審査会合でおおむね了承されました。
高浜原発1号機と2号機は来年7月までに運転期間の延長に向けた審査を終える必要がありますが、ケーブルの防火対策がおおむね了承されたことで、1つの山場を越えたことになります。
電気ケーブルに燃えにくい材質が使われていない問題は古い原発に共通の課題で、今後ほかの古い原発でも同様の対策が取られる可能性があります。
この件について同年5月26日に、原子力規制委員会は関西電力に対し「まったく証明になっていない」「信用できない」などと厳しく批判しています。
(2015年5月27日朝日新聞掲載記事より)
関西電力高浜原発1、2号機(福井県)の再稼働に向けた審査で、原子力規制委員会は5月26日、燃えにくい電気ケーブルを使っていなくても塗料を塗るなどすれば同等の防火性能を満たすとする関電の主張に対し、「まったく証明になっていない」「信用できない」などと厳しく批判しました。
関電はこの日の審査会合で、防火塗料を塗ったり、耐熱シートで覆ったりした試験の結果、十分な防火性能が確認できたと説明しました。しかし、規制委の担当者は「実験データが少なすぎてまったく証明になっていない。客観的な判断ができない」と批判。自主対策で塗った防火塗料がボロボロになっていた他原発の例を挙げ「今まで相当ひどかった。これから管理を徹底すると言われても信用できない」と指摘しました。関電側は「今後丁寧に説明していく」と繰り返しました。
又、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)で安全設備関連のケーブルが新規制基準に反して分離されていなかった問題で、東電が原子力規制委員会に提出した同原発6、7号機の審査の申請書類に、「対策を講じている」などと実態と異なる記述があることが分かりました。
(2015年12月9日福島民報新聞に掲載記事より)
規制委の審査は原発再稼働の前提として行われますが、電力会社の申請書類に事実と異なる記載があることを想定しておらず、ケーブルの分離は現場で確認していませんでした。審査の限界が浮き彫りになりました。
原発の新規制基準は火災対策として、安全上重要な設備と関連のあるケーブルは系統を分離するよう求めています。板などで隔離する必要がありますが、柏崎刈羽6、7号機では少なくとも計296本のケーブルが分離されていませんでした。
一方、東電が6、7号機の再稼働を目指し、2013年9月に提出した工事計画認可申請書は「相互に分離したケーブル・トレー、電線管を使用して敷設」と明記。「独立性を侵害することのないよう適切に影響軽減のための対策を講じている」と記載していました。
実際には安全設備関連のケーブルを入れたトレーに、別のケーブルも通すなど、不適切な工事が行われていました。東電は「対策を講じたと思い込んでいた。確認が不十分だった」としています。
規制委は8月、東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型原発のうち、柏崎刈羽6、7号機を優先的に審査すると決めました。しかし9月に東電が報告するまで、ケーブルの問題を把握していませんでした。
同様の問題は、中部電力浜岡原発4号機(静岡県)や、北陸電力志賀原発1号機(石川県)などでも発覚しています。
チェルノブイリ原発では、構造上のミスと人的ミスにより人類史上最大の原発事故が発生しました。しかし事故が起こる前には、経済優先により安全を軽視し、様々な隠蔽が行われていた事が明らかになっています。
事故の前年の12月26日の原子力産業の記念日に合わせて4号炉を完工するために、耐熱材質を不燃性材質から可燃性材質へと変更し施工を強行したことも放射性物質の拡散拡大の原因のひとつに挙げられています。(参照:ウィキペディア)
原子力規制委員会による審査は、私たちの運命を決めると言っても過言ではないのかもしれません。審査に国の政策の影響が及び、原発回帰路線へと向かっていく一方で、嵐が起こる前の静けさのように穏やかである日本の空気に危機感を感じています。