(2016年8月4日朝日新聞・福島民報新聞・赤旗新聞掲載記事より)
運転開始から2016年12月で40年になる関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)について、原子力規制委員会が延長認可の前提となる審査書案を了承しました。あと二つの認可で、最長で20年寿命を延ばすことが出来ます。
『40年を超える古い原発は、不測の事故を予防するためにも閉じていく』という法律の趣旨に基づき、延長はあくまで例外だったはずです。それにもかかわらず2016年6月、稼働から40年超の高浜原発1、2号機(福井県)の延長が決まりました。立て続けに美浜3号機も認めるのでしょうか?
美浜3号機には、固有の問題も少なくありません。まず原子炉が断層の近くにあるため、規制委は地震の揺れ想定について、関電が当初考えていた基準値より1.3倍大きい値に引き上げました。基準値の見直しに伴い、新たな安全対策に時間を要するとする関電からの要請を受け、規制委は重要設備の耐震性の最終確認について先送りを認めました。これは高浜1・2号機でも適用された手法ですが、本来は先に確認しておくべきです。
また、関電は美浜1、2号機については廃炉を決めました。3号機だけ運転延長を申請したのは、原発と共に歩んできた地元自治体への配慮に加え、出力が比較的大きく、追加対策にお金をかけても採算がとれるとにらんだからです。ここでもやはり、これまで脱原発が進まない原因となってきた、原発に依存する地方の問題や、電力会社の経済優先の構造が透けて見えます。
福島第一原発事故により故郷や生業を奪われた人々の苦しみは、今もなお続いています。ひとたび原発事故が起こり放射能に汚染されてしまうと、二度と元の環境に戻せないことは、今の福島を見れば明らかです。除染では限界があり、いくら汚染土を剥がしアスファルト上を洗浄しても、しばらくすれば再び放射線量は上昇してきます。私が住む福島県郡山市内の公園や通学路では、子どもたちが今日も無邪気に歩き、一見平穏な日常が戻っているように見えます。しかし、実際は様々な所にホットスポットが点在しており、親から被ばくを避けるために土や植物に触れることを禁止されていたり、外遊びを制限されていたりするのです。親たちは、子どもが将来健康を損なうことや、差別を受けることへの不安を胸の内に秘めています。ここでは、そうしたことを気軽に話し合うことも出来ません。放射能への不安を見せれば、人間関係を壊しかねないからです。人が人らしく活き活きと生きる自由を、放射能汚染により奪われているのです。
5年前、日本中の人々が放射能の恐ろしさを実感し、何が本当に大切であるかを改めて考え直したことと思います。原子力規制委では福島第一原発事故から得た教訓を基に、『原子力の安全には終わりはなく、常により高いレベルのものを目指し続けていく必要がある』と新規制基準を定めました。それが今経済を優先し、ないがしろにされつつあります。
毎日当たり前のように使っている電気について、どこからきているか意識されているでしょうか?私たちには、電力会社の選択の自由もあります。美しい自然や、平穏な生活が、国のエネルギー政策次第で脅かされるかもしれません。原発事故を二度と起こさないために、まずは一人一人が日本のエネルギー政策に関わっている自覚を持つことが、大切なのではないかと思います。