国連・女性の地位委員会に出席して ~福島原発事故に関する報告会と参加者のコメントについて~

数ヶ月前のことになりますが、今年3月14~24日にニューヨークで開催された第60回国連・女性の地位委員会 (The Commitee on the Status of Women, 以後CSWと省略)のイベントで「いのちと環境をまもる」と題した報告発表をし、福島の現状を会場に集まった世界の人々に伝えました。今回のCSWは、女性の視点から世界で起きている人権の問題を考え、特に女性の人権とエンパワーメントの向上を通じて、持続可能な社会に向けて話し合う場でした。
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、5年が過ぎても危機的な状況を抜け出してはおらず、環境を破壊し、人々の生活を破壊し、人間関係を破壊し、子ども達の未来を破壊し続けています。しかし、東京電力も政府も放射能汚染に関する情報を適切には公開していなませんし、半ば強引な居住制限の解除によって、あたかも原発事故は収束しつつあるかのように見せています。
原発事故が、どのようにそこに暮らしていた人々、特に女性たちに影響を与えたのか、また与え続けているのかを世界の人々に伝えるため、多くの方々の協力をいただいて、「Report form Fukushima(福島からの報告)」という題にまとめ、3月19日(土)ニューヨークのチャーチセンターで発表することができました。ご協力くださった皆様に改めて感謝いたします。
今回の報告発表は、日本聖公会としての小さな一歩でした。発表後には、会場にいた方々が様々感想や質問を寄せてくださいました。私たちは発表を通して、世界の人々が福島の生の声を知りたいと望んでいることがわかりました。しかし、それを発信する日本の団体は多くはありません。だからこそ、私たちが継続的に発信していかなければならないと感じます。
世界には原発を持つ国々、これから原発を作ろうとしている国々も多く存在します。この福島からのレポートはそのような国の人たちにも原発の現実を訴えかけています。以下に発表概要と、世界の方々から頂いた質問やコメントを記します。


 

  • 発表内容の概要

  1. 原発事故の経緯と現状
    原発と放射能に関する特別問題プロジェクトから提供された写真や資料を中心に、事故を起こした東京電力福島第一発電所周辺地域の現在の状況について説明をしました。フレコンバックが山積みになっている様子、増え続ける汚染水の問題、人が住めなくなった町、作業員による町の除染の様子、外遊びができないため室内に子どもの遊び場が作られた幼稚園、線量計を持つ子ども達など、初めて見る人には信じられないような現状を報告しました。
  1. 証言
    今回、一番伝えたかったことは、被災された人々の声でした。「被災者」とひとくくりにできない、一人一人の困難、苦悩に向き合う毎日があります。その声を聞かなければ、この原発事故が人々の生活に何をもたらしたのか理解することはできません。このため、事故の影響を受けた様々な年代の方々、(被災地から福島県内に避難している一家、避難区域から福島県内の仮設住宅に避難中の女性達、避難解除された楢葉町に戻り生活しているお寺の住職さん、いわき市内に住んでいた当時15歳だった若い女性達、避難指示地区外の地域から東京に母子避難中の若いお母さん達、東京に母子避難しているお母さん方を支援するボランティア活動のスタッフの女性)にインターヴューし、集めた証言によって内容を構成しました。証言の一部はご本人の了解を得た上でビデオに収められ、報告の中で世界の人々へ伝えました。
  1.  原発は必要か?
    日本やアジアの原発保有の実態から、「原発問題についてのQ&A」(日本聖公会 原発と放射能に関する特別問題プロジェクト作成)に書かれている原発の環境的、社会的、人権的問題を取り上げました。原発を持つことのリスクと地球や人々の生活にもたらす影響から、持続可能な開発や社会と原発政策の矛盾に疑問を投げかけ、発表を終えました。

*配布資料:原発問題についてのQ&A (英語版)

 

  • 質疑応答とコメント

【質疑応答】

インディペンデント系ラジオのプロデューサーの女性(アメリカ):
このような事実は一般の報道では明らかにならない。放射能汚染に注意を向けている有志の人びとがニューヨークでラジオ番組を制作している。その番組で、日本の原発に懸念をもつ米国在住の日本人科学者が、政府が公に発表しない理由を話し、ラジオのアーカイブに残っている。近日中に、原発問題のイベントもある。ラジオ局のディレクターを知っている。インターヴューを受けてみてはどうか。

アリゾナの心理学教授(アメリカ):
東日本大震災後、福島でメンタル・トレーニングのボランティアをしていた。これは被災者女性に対して、いま起きた災害に対応し、次に起きる災害へのメンタル的な対応をトレーニングするものだった。このトレーニングを受けた女性が、他の女性たちをトレーニングしていくサイクルを作ろうとしている。日本政府はわたしのような外国人にはよい対応をしてくれるが、国民のことを大事に思っていないのが問題だ。メンタル・トレーニングをつうじて、被災者女性たちが次の災害に備えて、回りのプッシャーに負けずに自分自身のことを一番に考えるメンタルになれるよう応援している。
質問: このような活動が他の福島の女性へのアクションをもたらす可能性はあるのか。
答え: 東京に避難している人に、あなたの選択はまちがっていないことを伝え、サポートしていくことはできる。東電や政府との裁判に向けて、それを支える人や専門家が必要。

大韓聖公会 司祭(韓国):
韓国でも同じ原発問題があって、脱核運動をYWCAが中心となって進めている。北朝鮮が核爆弾を開発していると言っているが、原発自体が核爆弾の脅威と考えたほうがいい。釜山にある原発を市民が止めた。日本人がしなくてはならないのは政府に対して事実を隠すなという圧力をかけることである。

女性 (スイス):
原発は核爆弾に直結しているのだから、切り離して考えるべきではない。

女性(アメリカ、カルフォルニア州):
質問: 自主避難者のうち、女性と子どもだけで避難しているほうがマジョリティなのか。
答え: 夫が避難先で仕事を見つけられた人は家族一緒に住んでいるが、見つからない人は母子避難。

女性(アメリカ)
質問: 市民が放射能の値を知る方法があるのか。除染作業員に女性はいるか。
答え: 福島県は新聞に放射能空間線量計の発表はあるが他県にはない。除染作業員に女性もいる。

 

【寄せられたコメント・シート】

福島には、原発反対運動が起こっていますか。夫なしに母子だけで避難した人たちが、マジョリティなのですか。
女性(アメリカ)

 アメリカの人びとは2011年からずっとあなた方のことを思って祈っています。わたしたちは原子力の危険について伝えつづけることによって、神さまにあなた方の受けた災害がよいものに変わるよう祈っています。
匿名

福島の女性たちについて教えてくれてありがとう。わたしは悲しみと不安がいまも続いているとは知りませんでした。わたしはエネルギー資源を再生可能で持続可能なエネルギーを追求するべきだと思います。
アングリカン・コミュニオン 司祭 (イギリス)

あなた方のために祈っています。わたしたちは原子力技術を使うことを止めるためにわたしたち女性が連帯すべきです。あなたたちはけっして自己中心的ではありません。すべての人びとが安全で幸福に暮らす権利を持っています。
匿名(韓国)

あなたがたに愛と祈りを送ります。わたしはあなたがたを支え、いのちの価値を大切に思い続けています。この今のまちがいを正すために、あなたがたの努力を応援します。
女性(南アフリカ)

わたしは今まで、避難地域にまだ住民が戻っていないだけで、すでに安全だと思っていました。でもいまは、そうではないことを知りました。わたしはこれから福島の女性たちのことを伝えていこうと思います。
学生(アメリカ、ニューヨーク市)

被害にあわれた福島の女性たちに祝福がありますように。わたしたちアメリカのコネティカット州の女性たちはあなたたちのことを祈っています。わたしたちはソーラーパネルなどの再生可能なエネルギーに変えていこうと思います。
匿名

わたしの理解では、原子力エネルギーはあまりにもリスクが高いです。なぜなら災害が起きる可能性は低いが、いったん起きたらそれは大災害になるからです。
女性( アメリカ、マサチューセッツ州)

(福澤眞紀子/東京教区)

ベラルーシの今と福島の未来

(2016年8月13・14・15日福島民報新聞掲載記事より)

震災と原発事故から5年が過ぎ、避難区域の解除が相次ぎ復興が急速に進んでいますが、今も放射能を忘れることが出来ない生活が続いています。なかでも、こうした環境で多感な時期を過ごす子ども達への対応は、一刻も早く整えなくてはならない事だと思います。

チェルノブイリ原発事故により培った経験と知識、そして放射能に汚染された区域の今を学ぶために、現地を訪れる視察事業が福島県で生まれています。

視察事業のひとつである「福島子どもの未来を考える会」では、福島の中高生を対象にベラルーシの首都であるミンスクのキャンプ施設に宿泊しながら、文化活動やスポーツを通じた交流活動を行っています。今年の夏休みはベラルーシにある国立子ども教育保養施設「ズブリョノスク」に10日間滞在しました。
ベラルーシでは、チェルノブイリ原発事故後子ども達の健康のために、国による保養施設が作られました。施設は国内に14カ所あり、子ども達は毎年好きな場所を選んで利用しています。汚染区域に住む幼児から高校生は無料です。
「ズブリョノスク」には、松葉のエキスを使った手足のジェットバスやマッサージ機、アロマセラピー室などの設備が揃っており、滞在した福島の子ども達も積極的に活用し心身共にリフレッシュしました。また、施設内には18世紀末から19世紀初め頃までの農民の生活を伝える博物館が併設されています。そのほかにもわら細工や刺しゅうなどの伝統工芸を教わる施設も充実しており、故郷の文化や歴史を学ぶ事が出来ます。自国の文化を誇りに思っているベラルーシの子ども達の姿を見て、福島の子ども達も故郷への関心を高めたようです。

原発事故以降、福島県内でも子どもたちの健康を考え、線量の低い地域で夏休みなどを過ごす、一時保養事業が様々な団体により行われています。原発問題プロジェクトでもリフレッシュプログラムを行っていますが、放射線量の低い安全な場所で思う存分外遊びを満喫している子どもたちの表情は本当に活き活きとしており、その効果を実感しています。福島で育つ全ての子ども達のために、ベラルーシのような保養施設や、統一したプログラムが一日も早く出来ることを願っています。

老朽原発美浜3号機「適合」 規制委運転40年超3基目

(2016年8月4日朝日新聞・福島民報新聞・赤旗新聞掲載記事より)

運転開始から2016年12月で40年になる関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)について、原子力規制委員会が延長認可の前提となる審査書案を了承しました。あと二つの認可で、最長で20年寿命を延ばすことが出来ます。

『40年を超える古い原発は、不測の事故を予防するためにも閉じていく』という法律の趣旨に基づき、延長はあくまで例外だったはずです。それにもかかわらず2016年6月、稼働から40年超の高浜原発1、2号機(福井県)の延長が決まりました。立て続けに美浜3号機も認めるのでしょうか?

美浜3号機には、固有の問題も少なくありません。まず原子炉が断層の近くにあるため、規制委は地震の揺れ想定について、関電が当初考えていた基準値より1.3倍大きい値に引き上げました。基準値の見直しに伴い、新たな安全対策に時間を要するとする関電からの要請を受け、規制委は重要設備の耐震性の最終確認について先送りを認めました。これは高浜1・2号機でも適用された手法ですが、本来は先に確認しておくべきです。
また、関電は美浜1、2号機については廃炉を決めました。3号機だけ運転延長を申請したのは、原発と共に歩んできた地元自治体への配慮に加え、出力が比較的大きく、追加対策にお金をかけても採算がとれるとにらんだからです。ここでもやはり、これまで脱原発が進まない原因となってきた、原発に依存する地方の問題や、電力会社の経済優先の構造が透けて見えます。


 

福島第一原発事故により故郷や生業を奪われた人々の苦しみは、今もなお続いています。ひとたび原発事故が起こり放射能に汚染されてしまうと、二度と元の環境に戻せないことは、今の福島を見れば明らかです。除染では限界があり、いくら汚染土を剥がしアスファルト上を洗浄しても、しばらくすれば再び放射線量は上昇してきます。私が住む福島県郡山市内の公園や通学路では、子どもたちが今日も無邪気に歩き、一見平穏な日常が戻っているように見えます。しかし、実際は様々な所にホットスポットが点在しており、親から被ばくを避けるために土や植物に触れることを禁止されていたり、外遊びを制限されていたりするのです。親たちは、子どもが将来健康を損なうことや、差別を受けることへの不安を胸の内に秘めています。ここでは、そうしたことを気軽に話し合うことも出来ません。放射能への不安を見せれば、人間関係を壊しかねないからです。人が人らしく活き活きと生きる自由を、放射能汚染により奪われているのです。

5年前、日本中の人々が放射能の恐ろしさを実感し、何が本当に大切であるかを改めて考え直したことと思います。原子力規制委では福島第一原発事故から得た教訓を基に、『原子力の安全には終わりはなく、常により高いレベルのものを目指し続けていく必要がある』と新規制基準を定めました。それが今経済を優先し、ないがしろにされつつあります。

毎日当たり前のように使っている電気について、どこからきているか意識されているでしょうか?私たちには、電力会社の選択の自由もあります。美しい自然や、平穏な生活が、国のエネルギー政策次第で脅かされるかもしれません。原発事故を二度と起こさないために、まずは一人一人が日本のエネルギー政策に関わっている自覚を持つことが、大切なのではないかと思います。

自主避難者3割超が来春後の住居「未定」

(2016年7月30日朝日新聞・2016年8月2日福島民報新聞・8月3日朝日新聞掲載記事より)2016年8月3日朝日

東京電力福島第一原発事故で出されていた「避難指示」が相次いで解除されています。政府は2017年3月末までに、放射線量の高い「帰還困難区域」以外を解除する方針です。2020年の東京五輪を「復興五輪」と位置づけ、世界に復興をアピールしようというねらいもあります。これまでの避難解除に伴い、約2万人が事故前に暮らしていた土地に戻れるようになりました。しかし、実際に戻ったのはわずか5%ほどです。避難生活が長引いた事で、避難先で仕事を得たり、学校に通うようになったり、そこでの生活になじんだ人が多いのです。5年間は“避難”というには長過ぎるという事でしょう。また、放射線への不安のほか、商店や病院の再開もわずかなため、若い人ほど戻る事が難しい環境です。

一方で、東電や政府は賠償や生活支援を打ち切り始めています。
政府からの避難指示を受けずに避難した自主避難者について、福島県などの自治体は「災害救助法」に基づき、県内外の民間アパートを借り上げ、無償で提供しています。福島県ではその住宅供与を、2017年3月をもって終了する事としており、自主避難者は地元に帰還するか、自費で自主避難を続けるか決断を迫られています。

2016年8月2日福島民報東日本大震災と原発事故に伴い福島県外に避難している福島県民(自主避難者を含む)は2016年7月14日現在で、4万982人います。ちなみに福島県内に避難しているのは2016年8月1日現在、4万7922人。避難先不明者は20人で、県内外合わせた避難者数は8万8924人にのぼります。
2016年7月30日朝日

福島県内外の自主避難者に対して、福島県などが戸別訪問したところ、面会できた5190世帯のうち、2017年4月以降の住居が「未定」と答えたのは1693世帯(32.6%)に上ることが分かりました。

自主避難者の中には放射線被ばくから身を守るために着の身着のままで避難してきた母子だけの世帯も多く、住宅支援の打ち切りは深刻な問題です。多くの自主避難者は二重生活の過酷さのみならず、心ない差別や偏見にもさらされています。


 

福島で子育てに関わる人たちは、今も様々な不安や葛藤を抱えています。年月の経過と共に、福島で暮らす人々が放射能について話題にする事はますます少なくなってきました。それは、福島で生きていく事を選んだからには、消えることのない放射能の問題は受け入れざるを得ない事だからです。しかし放射線量は場所によっては今だ高いままであり、放射能の問題はよりタブーとなっていると言えます。
放射能を全く気にしていない人もいれば、自分に出来る範囲で被ばく対策をしている人もおり、各々が放射能に対し自分なりの基準を定めて生活しています。

もう心配いらないという報道、危険だという見解、どちらも溢れています。今、福島へ戻るか迷っている福島県外へ自主避難されている方には、徹底的に情報を収集し、出来る事なら自分の目や足を使い現地を訪れ、福島へ戻るリスクとメリットを明確に把握し悔いのない選択をされる事を願っています。

そしてあらたな生活を始める自主避難者に対し、政府や自治体は様々な方向から支援していかなくてはならないと思います。