凍土遮水壁の設置完了したものの認可・運用めど立たず

(2016年2月10日福島民報・朝日新聞・赤旗掲載記事より)

 

東京電力が福島第一原発の汚染水対策の柱として建設している凍土壁(※)が、凍結を始められない事態に陥っています。地下水の動きによっては汚染水の増加を抑えるどころか、逆に汚染水が漏れ出すおそれがあるとして、原子力規制委員会が凍結開始を認可しないからです。東電は2016年2月9日、工事の完了を発表しましたが、規制委を納得させられるかどうかは見通せません。

【(※)凍土壁とは・・・・福島第一原発では、溶けた燃料が落ちている建屋地下に地下水が流れ込むことで、高濃度汚染水が生まれ続けています。その対策として1~4号機の建屋地下を長さ1500メートルの「氷の壁」で取り囲み、地下水を遮断する計画を立てました。計1568本の凍結管を約1メートル間隔で深さ30メートルまで埋め、零下30度に冷やした液体を循環させて周りの土を凍らせます。しかし、過去にこれほど大規模な凍土壁が造られた前例は無く、凍結期間も2020年までと長期間に及ぶ事を懸念する声もあります。約345億円という巨額の税金を投入した壮大な無駄遣いになりかねないと、実現性を含めて多くの疑問が出されています。】

凍土壁を認可する立場の規制委は当初から効果を疑問視してきました。「氷の壁」で囲んで地下水位が下がりすぎると、建屋にたまっている高濃度汚染水が逆に地中へ漏れ出してしまうリスクがあるからです。

安全に運用できるか審査する検討会で、東電に再三説明を求めてきました。他の対策もある中で凍土壁の早期凍結にこだわる東電への不信感もあり、田中俊一委員長は昨春、「凍土壁ができたら汚染水の問題がなくなるかのような変な錯覚をまき散らしているところに過ちがある」とまで述べました。

実際、昨春に始まった試験凍結では、予想外に水位が下がる場所が見つかりました。水位は場所ごとに異なり、流速や流れる向きも未解明な部分が多いですいったん凍らせると溶けるまでに2カ月ほどかかるといい、問題が起きてもすぐに後戻りできません

敷地内にたまった処理済みの汚染水は70万トンを超え、タンクの増設も難しくなってきました。新たな汚染水の発生をとにかく減らしたい東電と、汚染水漏れは何としても避けたい規制委。隔たりが埋まらないまま工事完了が近づいた2015年12月、規制委は建屋から汚染水が漏れ出すおそれが少ない凍土壁の部分凍結を文書で「提案」する異例の対応をとりました。東電は全面凍結を目指す姿勢を崩していませんが、「提案」の検討も進めています。