(2015年12月25日福島民報・朝日新聞・赤旗新聞掲載記事より)
福井県にある高浜原子力発電所の3号機と4号機について、福井地方裁判所は2015年12月24日に「新しい規制基準の内容と審査の判断は合理的で、住民の生命が脅かされる具体的な危険は認められない」と指摘し、再稼働しないよう命じた2015年4月の仮処分(※)を取り消し、再稼働を認める判断をしました。
【(※)福井地裁の樋口英明裁判長(当時)は、関西電力が想定する基準地震動を超える地震で過酷事故に陥る危険性があるとして、新規制基準を事実上否定し、再稼働差し止めを命じていました。このため関西電力が同地裁に異議を申し立てていました。】
また、同地裁(林裁判長)は同日、関西電力大飯原発3、4号機(同県おおい町)に対し、当時の樋口英明裁判長により命じられていた再稼働差し止めの仮処分も却下する決定をしました。
高浜原発3号機と4号機は、2015年2月、鹿児島県の川内原発の次に規制委員会の審査に合格し、これまでに福井県の西川知事が再稼働に同意するなど地元の同意は出そろっています。今回の決定を受けて関西電力は、まず3号機で原子炉に核燃料を入れて検査を受けるなど、最終的な手続きを進め、2016年1月にも再稼働させる方針です。
一方、住民側は今回の決定を不服として名古屋高等裁判所金沢支部に抗告することにしています。
関西電力は全国の電力会社の中でも原発依存度が高く、東京電力福島第一原発事故の前は、発電量の5割弱をまかなっていました。2013年9月に原発稼働がゼロとなってからは、業績は赤字続きで、電気料金は2度値上げしています。高浜原発3、4号機が共に動けば月約120億円の収支改善になると試算しています。電気料金を値下げし、2016年4月からの電力自由化による競争を乗り切りたい考えです。
福島第一原発事故をきっかけに、原子力発電所を再稼働させないよう求める訴えは全国で相次いでいます。
原子力発電所を巡る裁判は昭和40年代後半から起こされるようになり、福井県にある高速増殖炉「もんじゅ」の裁判や、石川県にある北陸電力の志賀原発の裁判で住民などの訴えが認められました。
しかし、いずれも最高裁判所や高等裁判所で取り消され、「具体的な危険性までは認められない」という司法判断が定着しつつありました。その後福島第一原発の事故が起きると、全国で弁護団が結成されるなど改めて原発の安全性を問う動きが広がり、仮処分や集団訴訟の件数はおよそ30件に上っているということです。
2014年5月、こうした集団訴訟の判決で、福井地方裁判所は福井県にある大飯原発の3号機と4号機を再稼働しないよう命じました。
さらに、2015年4月には、同じ裁判長が高浜原発の3号機と4号機の再稼働を認めない決定を出した一方、その1週間余りあとの決定で、鹿児島県の川内原発1号機と2号機については、鹿児島地方裁判所が住民の仮処分の申し立てを退けました。
名古屋高裁金沢支部裁判長として2003年に高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)の設置許可無効の判決をした元裁判官の川崎和夫さんは『鹿児島地裁の決定に続く今回の決定を見てみると、裁判所は安全神話がまかり通っていた時代に戻りつつあるのではないかという気がする』と指摘しています。『福島の原発事故の教訓を踏まえれば、専門技術的な観点からの判断だけではなく、国民の納得可能性の有無についても考慮すべきではないか』と語っています。
今後も各地で原発の再稼働を巡る仮処分や判決が言い渡される見通しですが、今回の決定を踏襲し、再稼働への手続きがさらに加速することを懸念しています。
今、司法でも福島原発事故が過去のものとして風化されようとしています。
再び原発の恐ろしさに傷つき苦しむ人がいないように、私たち一人一人が福島原発事故を忘れずに、後世へと伝え続けていく事の大切さを感じています。