(2015年7月26日福島民報新聞掲載記事より)
今、地熱発電へ世界的に注目が高まっています。
地熱発電は地中深くまで井戸を掘削し、噴き上がる蒸気や熱でタービンを回転させ発電します。自然が生み出す蒸気を使って発電するため二酸化炭素の排出量は火力発電の約20分の1と、地球温暖化対策にもなります。また、再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力と異なり、気象条件を問わず安定した発電量を得られます。アメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の火山国である日本は、発電量2347万kwの地熱資源があり、原発約20基分に相当しますが、その3%足らずしか活用していません。
これまでは国の原発優遇策の中で十分な支援がなかったことや、温泉業者に建設への反対が根強いことなどで、地熱開発が進みませんでした。福島原発事故後、政府は2030年までに地熱発電の容量を最大で約100万キロワットを増やすことを見込み、様々な規制緩和に動き出したことから、最近になって小規模ながら新たな地熱発電所が全国で運転を開始しています。
福島県でも、現在磐梯朝日国立公園内で国内最大級の地熱発電所建設計画が進んでいます。しかし、この建設計画に福島県の温泉業者は危機感を募らせています。
発電所の建設には地中から蒸気を抜くための井戸を掘ることが必要です。温泉業者は井戸によって湯量が激減したり、温度が下がったり、成分が変わったりするなどの影響を懸念しています。 福島県の温泉業者からは「地熱発電所建設の影響が温泉にあったという報告を国内外で聞いている。国のやり方は『まず地熱ありき』のようで、性急すぎる」「試掘をする前に、影響が出た場合の補償がしっかり示されなければ納得できない」との声が上がっています。
福島県には泉質が良く素晴らしい温泉が各所にありますが、原発事故以来すっかりさびれてしまいました。私も時々県内の温泉を巡りますが、どこも人の気配が薄く、その都度風評被害の深刻さを改めて実感します。廃業した温泉宿の佇まいは、目に焼き付いて忘れられないほど寂しいものでした。
福島県では全国に先駆けて、2040年までに県内の再生エネルギー導入率100%達成を目標としています。再生可能エネルギーの鍵となる地熱発電と、温泉街の復興が共に両立することを願いながら、今後もこの問題に注目していきたいと思います。