ー福島県知事 欧州訪問ー福島の光と闇を世界に発信

(2015年7月14日~16日福島民報新聞掲載記事より)

2015年7月12日から18日にかけて、福島県の内堀雅雄知事が海外訪問としてスイス・イギリスを訪問し、福島の現状を発信し風評払拭の協力を求めています。

福島県では全国に先駆けて、2040年までに県内の再生エネルギー導入率100%達成を目標としています。スイスは東京電力福島第一原発事故を受け、段階的な脱原発を決定し、2034年までに現存5基の原子炉を廃止し、水力発電や再生可能エネルギーへの転換を目指しています。福島県はスイスのそうした先進事例を参考にし、原子力に頼らない社会づくりを進めようとしています。

福島の原発事故後に原子力撤廃を決定した国はスイスの他に、ドイツ、イタリア、イスラエル、シンガポールが挙げられます。被曝国でありながら原発依存を続けようとしている日本は、世界に遅れをとっています。

今回知事はスイスのジュネーブ、シャンシー・プニー水力発電所、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、そして廃炉予定のミューレベルク原子力発電所を視察しました。
知事はIFRCを訪問した際事務総長に「国も県も市町村もどう原発事故に対応すべきか的確な指示ができなかった」と吐露したところ、シィ事務総長より「正直に『できなかった』と打ち明けることは勇気の要ることで、復興に向けた長い旅の良い始まりだと思う」と連携強化の約束を得ました。
又、ミューレベルク原子力発電所の廃炉は少なくとも15年はかかり、廃炉費用の総額は約1千億円にのぼります。放射性廃棄物は20万トンでそのうち約3千トンは地中深くに埋設する想定です。視察に同席したスイス連邦政府エネルギー庁の長官は、原発の廃炉について「技術的な課題や安全性の確保を最優先に判断するものであり、政治的な問題で決められることではない」と強調しています。

さらに知事はスイスで開催された交流会で「仮設住宅を訪れるたびに『早くこの状態から助けてくれ』との悲痛な叫びを聞いている」と避難者の心情を伝えています。

私は福島県郡山市で暮らしていますが、この地で生活している人達が放射能について次第に語らなくなりつつあるのを感じています。そうした傾向は、我慢強い東北地方特有の人柄と、福島で暮らすことを選択したからには放射能を受け入れるより他には無いという想いから生まれているのでしょう。ある女性は、「自分が住んでいる郡山市について、県外に住む息子からも放射能の問題は収束していると思われている。だが普段歩いている道路は0.5μSv/h前後あるなどホットスポットはあちこちにある。放射能の問題は一生抱えていかなくてはいけないことであり、抱えるものがあまりにも大きすぎる。不安は常にあるが年々言葉に出せなくなっている。」と胸の内を語ってくれました。

しかし、同じ悲劇を繰り返さないために、言葉に出し伝えていく事も大切です。福島で暮らしている者同士放射能にまつわる想いを語り合っていると、たとえひとりの小さな声だとしても、科学的な根拠よりもずっと人を動かす大きな力があるのを感じます。

そしてその声が世界に広がり、福島の闇が光に変わる日が早く来ることを、私たちは願っています。
現地で生活している者だからこそ、分かち合い、助け合っていけるのだと信じて、ひとりひとりが胸に秘めている声をこれからも拾い集め、発信していきたいと思います。