セシウム8割 土壌に ー降雨時の流出防止課題ー

(2015年5月29日福島民報新聞掲載記事より)

セシウム8割 土壌にー降雨時の流出防止課題ー
セシウム8割 土壌にー降雨時の流出防止課題ー

ここに記載されている情報を少し整理してみましょう。

1.原発事故により森林に降った放射性セシウムの約8割が今現在は地表から約5センチの土の中にあり、2割弱が落ち葉に含まれていた(針葉樹・落葉樹も同様の傾向)。
2.以前は葉や枝、木の表面に付いていたが、今現在は落ち葉に伴い土の中に移行している。
3.放射性物質を含んだ土が川に流れ込まないための対策として間伐や土砂流出防止柵の設置などの「ふくしま森林再生事業」の強化する。
4.森林の空間線量は平成23年度に比べると平成26年度は57%減少している(0.91マイクロシーベルトから0.39マイクロシーベルト)。

さて、事故により拡散した放射性物質が森林の木々から土の中に移っているという事、放射性物質対策、森林整備として汚染された土が川に流れ込まないようなどの対策がきちんとなされているという事、そして空間線量は減少傾向にあるという事は様々な困難な状況を抱える中において朗報というか、少しほっとする、また行政の放射線に対する取り組みが見て取れる情報であります。しかし、放射性物質が地表から5センチの土の中にあるという事は、誰もそれを埋めた訳ではなく、落ち葉が時間をかけて土となり樹木の生えている土壌になりつつあるという事であると思うのです。
ここで大変興味深い、というよりも不安になる研究結果があります。それはチェルノブイリ原発事故におけるウクライナのジトーミル州で測定された松材の年輪の中の放射能測定値の変化であります。(※下記資料参照)驚くべきことは事故後の放射能の値が7年後では約10倍になっているということです。この結果が意味するのは、「汚染の循環」という事をこの研究結果は述べています。汚染は初め、放射性物質が葉・枝・樹皮に付着することで始まります。それが時間の経過と共に枝葉から土壌に移る。これは放射性物質が付着した落ち葉が腐葉土となるからです。そして、さらなる時間の経過を経て根からの吸収が始まります。根から吸収された放射性物質は幹、枝、葉へと運ばれていき、そして葉が落ち、また土となる、その繰り返しが続く、それが「汚染の循環」である、と述べています。
通常、時間の経過というのは傷ついた人を癒したり、また時には笑顔にしてくれるものであると思います。でも、原発事故による放射線による被害そして不安というのは事故当時だけではなく、時間の経過と共に、また自然界の中の循環という形でゆっくりとしかし確実に私たちに迫ってくる、そんな気がしてなりません。(スタッフ/佐々木)

▼※河田昌東氏による資料より(河田昌東氏/名古屋大学理学部で研究生活をしていた1970 年代、四日市ぜんそくの調査に当たったことを機に、各地の公害問題に科学者の立場から取り組んできた。チェルノブイリ原発事故の後は、ウクライナの被災地で、医療支援や農地の再生などさまざまな活動を続けてきた。近年は、放射能汚染からウクライナで利用されていない広大な農地の再生に取り組み、ナタネを植えて、バイオディーゼル燃料を作るプロジェクトを進めている。そして「チェルノブイリで学んだことを日本に還元したい」という強い思いから、いまは福島の農業再生のお手伝いも始めている。)