ヘンデルが大バッハより先に生まれていたという事は意外に知られていません。と言っても一ヵ月ですが・・。一六八五年二月二十三日にヘンデルが中部ドイツのハレに、同年三月二十三日には大バッハが中部ドイツのアイゼナハに生まれています。そしてそれぞれの地のルター派教会で受洗しているのも偶然の一致でしょう。ところが私達はいつの頃からか、バッハ・ヘンデルという順に考えたのは、ヘンデルが九年長生きだったという以外見当たりません。本当はヘンデル・バッハの順が正しいのかも知れません。
それはさておき、両者の音楽は大変違います。ヘンデルが後年イギリスに帰化し、王室の保護の下で主に歌劇とオラトリオを作曲したのに対し、バッハは生涯ドイツにとどまり教会に属し、教会暦に添った礼拝の為の音楽を主に作った点です。今回のメサイアもヘンデルを代表する一曲には違いありませんが礼拝とは無関係です。またクリスマスや年末とも直接の関係はないのです。
メサイアはヘブライ語"メシア"の英語読みで「油そそがれた者」「神から選ばれた支配者」つまりキリストを指します。従って「救世主」と訳されることもあります。
台本は友人のジェネンズが旧・新約聖書から引用、編集したもので、全体は三部に分かれます。第一部はキリスト誕生の予言と成就、第二部が受難と贖罪、第三部で復活と永遠の生命となり、壮大なキリストの生涯が生き生きと宗教的感動をもって語られます。私達がいつも歌う"ハレルヤ・コーラス"は第二部の最後を飾る大合唱で、ヨハネ黙示録に依っています。
全曲演奏には二時間余もかかる大作ですが、ヘンデルは何と三週間で完成してしまいました。一七四二年四月十三日にアイルランドのダブリンで初演。もちろんヘンデル自身の指揮で行われ大成功であった由。またロンドンでの初演は一年遅れて一七四三年三月二十三日、国王ジョージ二世も臨席され、ハレルヤ・コーラスの「全能にして主なる我らの神は」にさしかかると陛下は感動して立ち上がられ、それを見た聴衆も一斉に起立してハレルヤ・コーラスを聴いたと伝えられています。それ以後この曲の演奏中は起立する習慣が生まれました。
最後に初演時の新聞評の一部をご紹介しましょう。「敬虔の念に充たされた群集にこの作品が与えた絶妙な歓喜をあらわす言葉が見当たらない。高貴で威厳にみち感動あふれる言葉に付された尊厳と気品と優しさ・・」。CDですがピノック指揮イングリッシュ・コンサート(POCA2513〜4)は如何?
(ルカ 梅本俊和)
参考文献 渡部恵一郎著・ヘンデル・音楽之友社
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