お雑煮
セシリア秋葉 緑
今年の元旦の朝、「おはようございます。お宅のお雑煮はどんなお雑煮ですか?」という声で目が覚めました。目覚し時計代わりにしているラジオの音です。アナウンサーが日本各地のお雑煮についてインタビューをするという番組でした。東京は「角餅におすまし」大阪は「丸餅に白味噌」、四国の高松は「餡入り丸餅に白味噌」島根の出雲は「丸餅に小豆汁」・・・。ああ、こうなるともう起きなければなりません。私もお雑煮を作らなければ・・・。

わが家のお雑煮は関東風です。焼いた角餅、梅型に切った人参と大根、里芋、椎茸、かしわ、ほうれん草、紅白かまぼこ、柚子、三つ葉。これをおすましでいただきます。私の実家では母が福岡の出身でしたので、お元日は父の好みで関東風、二日目は母の好みで、丸餅を入れた具だくさんの博多風ぶり雑煮でした。

「お宅のお雑煮はどんなお雑煮ですか?」と聞くのは楽しいものです。

それぞれのお国柄だけでなく、ご家族の関係をちらりと垣間見ることができるのです。夫婦げんかのタネになることがあるとか、折衷案があるとか、とても変わっているとか、話題は尽きません。ある方は、「昔、アメリカからおいでになった宣教師の先生も召し上がれるようにと、コンソメ仕立てにしていたので、いまもそれが続いています。」と話してくださいました。丸餅じゃないとお雑煮を食べた気がしないという人もいれば、お餅を焼くか煮るかで好みが分かれたりもします。

それだけではなく、「どんなお雑煮ですか?」との質問に、多くの方が最初は「うちのは普通のお雑煮ですよ。」とお答えになります。大人でも子どもでも「うちのは普通」とそれぞれが思っているのが、また面白いところです。「普通って何ですか?」と確認すると、さらに話が広がります。そして、話が進むにつれて「いろいろなお雑煮がありそうだけれど、うちのお雑煮が一番いい。」と心の中で各自ひそかに思っている様子がうかがえます。お雑煮というのは、自分の家族の姿や自分の家庭のぬくもりを、非常に具体的なかたちで感じることができる食べ物なのかもしれません。百の家庭があれば、百の違ったお雑煮があるでしょう。普通などないと私は思います。お雑煮も家族も、他と似ている部分もあるけれど、他とは違うのがあたりまえなのですから。

一年の初めにいただくお食事が、それぞれの家庭のお雑煮であるということは、とても素敵なことだと思います。「うちのお雑煮はね・・・。」とお雑煮談義に花を咲かせることで、自分の家族や相手の家族に思いを馳せ、それが人と人との豊かな関係を結ぶことにつながれば、お雑煮冥利に尽きるというものではないでしょうか。
BACK
はじめのページへ