ヴィクター・メノッティさん講演会「経済のグローバル化への対案」要旨
2006年4月1日 於 フェアビーンズ(名古屋市千種区)
メインスピーカー ヴィクター・メノッティ
コーディネーター 池住 義憲
【講演要旨】
[IFGについて]
IFGは、1995年、WTOの発足に際して当時、企業の幹部や政府関係者の間だけでよいこととして語られていたグローバル化に対し、批判的な見方を育て、議論を喚起するためにサンフランシスコで結成された。グローバル化に対する国際的な市民の立場を発展させ広めるために、出版、啓蒙活動、様々な運動の国際的な組織化に取り組んでいる。
[企業でなく人々のコントロールを]
グローバル化とは、(1)資本(2)もの、サービス(3)テクノロジー(4)情報(5)労働力。この5つの領域において国民的、地域的な経済(市場)が解体されて、単一のグローバルな市場に統合される過程と理解できる。今日の問題は、こうした様々な領域の交易のルールが、市民を守るためでなく企業を守るための価値観に基づいている点にある。WTOのルールは、例えばエイズの患者が治療薬にアクセスする権利よりも薬の特許を守る権利を優先させている。EU諸国では、多くの国で遺伝子組み換え作物を禁止しているにもかかわらず、合衆国はこれに挑戦している。WTOは、特許の所有者や投資家の利益、輸出のための市場をまもる援助をする一方、健康や食品の安全などの基本的なニーズを守ることはしない。企業が自分たちの権利を守るためのルールを作っている。我々の任務はこうした貿易のありかたに民主的なコントロールを及ぼすことにある。
[国連の普遍的権利との矛盾]
今日、二つの国際的なシステムがある。一つはWTO、世界銀行、IMFなど、企業の権利を守るシステム。もう一つは国連のシステム。これは国際協力、平和と人権の理念に基づいて設立されている。国連人権規約、ILOの100を超える議定書。京都議定書、モントリオール議定書などの環境協定。女性の権利条約。先住民に関する条約草案、移住労働者に関する条約。これらは市民社会の圧力が政府を交渉のテーブルに着かせることによって実現してきた成果。しかし今これらはWTOのルールと衝突している。これらのしくみは国際的な市民社会が貿易がどうあるべきかを考える際の重要な参照点となる。
WTOが法的強制力を持っているのに対し、国連のシステムの側は持っていないところに問題がある。これは、市民が政府を通じて経済に統制を加えるという歴史的に作られてきた関係に逆行するもの。私たちのなすべきは、国連のシステムが目指す普遍的な権利を擁護し(エンパワメント)、WTOの側システムを弱体化させることである。
[運動のヤマ場となるこの2、3か月]
まず、WTOは一見巨大な怪物のように見えるが、内側から見ればもろい、ということを認識しておくことが重要。内部では政府同士の抗争があり、NGOはこのずれを利用して、WTOが強化されるのを妨げることができる。実際これはかなり成功していて、95年以来、新ラウンドの立ち上げに失敗し続けている。いま進行中の戦いは、WTOが今後どれほどの力を持つのかという一点をめぐって行われている。
2007年の夏に米国の大統領の交渉権限の期限が切れるのから逆算して、この7月末までに交渉方法(モダリティ)について妥結しなければ、ドーハラウンドは崩壊する。ドーハラウンドの崩壊は、WTO全体の崩壊につながりうる。この4月から7月は決定的に重要な時期で、この間にG6(日本、オーストラリア、合衆国、EU、ブラジル、インド)の諸国で何が起こるかにかかっている。
なかでも日本の役割は重要だ。諸外国は、日本は米の問題で交渉をブロックするかも知れないとおそれている。ウルグアイラウンドの時、日本の米問題はWTOの発足自体を危うく破産させるところだった。現実の日本がどうなっているかより、諸外国がどう受け止めているかが重要。この懸念を利用して、これを現実にしてしまうことができると思う。
[3つのD]
それには日本で、小泉政権に対し、交渉を強行することは政治的に高くつくと思わせる状況を作り出すこと。ここ2、3か月、政府内部の分裂を引き延ばすこと。これは日本の人々にしかできない。
WTOの正統性を突き崩していくための戦略は3つのD。divide,delay,derail。これを成功させれば、WTOというしくみは失敗であることが明らかになる。そして国連の諸条約の拡大の余地を広げていくことができる。こうしてオルターナティヴな空間を作り出してゆく。そのためにいま、日本の市民社会が批判的な役割を果たすことが重要だ。
【質疑・感想など】
Q.日本のグローバル化に抵抗する勢力は国の内外で思われているよりも強い、とメノッティさんは指摘するが、なぜそう思うか。
A.日本の各地を回って都市よりも農漁村のコミュニティでグローバル化への抵抗は強いと感じた。ウルグアイラウンドの米のケースのように、各国を警戒させている。たとえば農林業の団体が、外国の社会運動や同種の団体、可能なら政府から彼らの立場をもっと理解され、支持を得られればもっと影響力を発揮できる。こうした国際的な協働を発展させるために、援助したいと考えている。
自分たちが小さくて無力だと思えるときがあるが、そうとばかりは限らない。他からは強力に見えている可能性もある。強いと思いこむことはないけども、何らかの力は持っている。それを使うことができる。
Q.WTOを崩壊させればグローバル化への流れは止まるのだろうか。
A.グローバル化は止めることにはならない。私たちの任務はそれを止めることではなくてそのルールを変えること。国際貿易に民主的な統制を及ぼすこと。違う価値観に基づいたルールに変える必要がある。
WTOがなくなればカオスになって戦争が起こるという人がいる。しかし1995年のWTO設立以来6年もしないうちに実際に戦争は起きている。これはグローバリゼーションに対する反応でもあった。カオスを避け、秩序正しく移行するために注意深くなる必要がある。グローバリゼーションに抵抗する勢力が進歩的とは限らないということにも注意しておく必要がある。保守的で右翼的なものだったり、アラブや中国に対する反感だったり、醜いナショナリズムの発露であることも多い。こうした中で進歩的な国際主義が今こそ必要だ。
Q.現時点のWTOのしくみに積極的な点はないのか。
A.ひとつも思いつかない。
貿易が自由化されれば価格が安くなって消費者の利益になるという議論があるが、それによって仕事を失う人もいる。また生産のコストが下がったからといって企業が安く売るようになるとは限らない。WTOの利点をいう主要な議論はこうしたものだが、十分反論可能。明白なのは、利点が仮にあるとしてもそれはルールを作る大企業のものになるということ。
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