WTOサービス交渉、WTOとは何か
     佐久間智子(元市民フォーラム2001事務局長)
GATT・WTOの原則
内外無差別原則=内国民待遇十最恵国待遇
不可逆的自由化=スタンドスティル十ロールバック
GATT(関税と貿易に関する一般協定:1947〜)からWTO(世界貿易機関:1994-)へ。何が変わったのか

1.国境措置だけでなく、各国の国内法制・基準が変更を迫られるようになった
▼GATT時代の自由化=国境措置の低減
@輸入禁止・輸入数量規制などの削減・撤廃と、関税措置への置き換え(=関税化)
A関税率の引き下げ
▼WTO時代の自由化=国内法のハーモナイゼーション
B各国の基準を国際基準に合わせる(=国際整合化、ハーモナイゼーション)
   ex.工業製品規格(1973年〜)、食品基準(1995年〜)
C貿易の障害となる国内法規制・政策の改変
   ex.政府調達、投資関連措置、サービス
D貿易自由化に資する国内法の新設
   ex.途上国における競争法や特許法の制定など

2.自由化の対象範囲が広がった
▼GATT時代:モノ(鉱工業製品と林水産物)の貿易ルール
▼WTO時代:加えて農業、サービス、投資、知的所有権、繊維・衣料、食品安全基準、労働基準、環境基準など

3.国際法としての法的拘束力が付与され、さらに紛争解決メカニズムの強化によって絶大な法的強制力を備えるようになった

 

サービス貿易の自由化

1.GATS(サービス貿易に関する一般協定:1994〜)とは
サービス貿易の4つの形態:
▼モード1:越境取引(インターネットなどでのサービスの提供)
▼モード2:国外消費(消費者が海外旅行中に行う消費など)
▼モード3:商業拠点の設立(子会杜や支店を設立し提供されるサービス)
▼モード4:自然人の移動(アーティストの海外公演など)

各国が約束した分野の自由化(ボトムアップ式自由化)
 国内措置の改訂/補助金の相殺措置の容認/市場アクセスの改善(サービス提供者の数の制限、取引総額・総数の制限、サービス関連雇用の制限、外国資本規制、現地調達要求などは全て禁止)/関連措置の事前通告義務など

3.ウルグアイラウンド以後のサービス貿易関連の自由化ルール(複数国間協定)
 基本電気通信サービス協定/金融サービス協定/政府調達協定
 会計サービス分野における資格・免許の相互認証ガイドラインなど

4.GATS2000(再交渉)の概要
(2000年2月に開始され、2001年3月末に交渉ガイドラインが定められた。このガイドラインでは交渉期限を定められおらず、またスタンドスティルが解除された。特に途上国への配慮を強調しているのは、1月にWTO事務局が作成した案を途上国70カ国が拒否したため)サービス貿易の97%を先進国が占めている
▼基本的に全てのサービス分野が対象とされる
▼リクエスト・オファー方式(二国間・複数国間・多国間のそれぞれで交渉が行われる)
▼既に具体的な検討が行われている分野は以下の20分野:
 流通・建設土建・郵便配達・オーディオビジュアル・法務・コンピュータ関連・環境(水)・広告・教育・健康・旅行・エネルギー・運輸(航空・道路・鉄道・海運)・金融・会計・電気通信)など
「内国民待遇」原則を超え、「国際基準」へのハーモナイゼーションが標榜される?
▼公共サービスの自由化
 GATSでは「公の秩序」ということで除外されていた分野
 GATS2000交渉にも公共サービスは含まれていないと政府が国会答弁
 (目本で公共サービスであるものがアメリカでは既に民間サービスであるため)
▼公共サービス自由化の間題点
 公共セクターの民営化、営利化(?)=公的サービスの民間独占が起きる可能性も
 ユニバーサリティの危機=人々の基本的人権の否定、サービスの質の低下
 環境保全や社会的公正といった公益的目的よりも経済的利益の追求が優先される
 供給が不安定化しやすい
 外国資本が補助金の恩恵を受けられるようになれば「所得の再分配」が不可能になる
▼上下水道サービスの自由化の事例
 豪シドニー/ボリビア・コチャバンバ/フィリピン・マニラ/マレーシア
▼世界銀行・IMF(国際通貨基金)の構造調整と途上国
▼1980年代中盤(債務危機)以降に途上国に課された融資条件;
 一為替の変動相場制への移行。固定相場制を維持するための財政出動を止めさせる
 一公営企業の民営化と、公務員の削減
 一補助金の削減、特に経済的に直接効果が上がりにくい教育や福祉、医療などの補助金の削減
  輸出産業の振興など(単一換金作物農業の拡大=工業的農業の拡大)
WTOの貿易・投資自由化は、この構造調整プログラムを先進国にも押し付けるもの市民・NGOの課題

1992.6 国連環境開発会議(地球サミット) NGOのオブザーバー資格要件緩和
1996.12 WTO第一回閣僚会議にNGOもオブザーバー参加
1997.1O OECD本部でMAI(多国間投資協定)交渉グループとNGOの非公式協議
1998.12 NGOの圧力を受けて仏政府がMAIから撤退。MAI交渉とんざ。
1999.12 WTOシアトル閣僚会議、途上国の反発と市民抗議を受けて失敗

 

GATSの攻撃を今すぐ止めさせよ!(2001年2月)

(前略)…1994年に生まれた現在のGATSの内容は、すでに包括的かつ壮大なものとなっています。現行のGATSルールは、サービス分野における国際貿易と国際競争を阻害している各国の制度的「障壁」を段階的に廃止するよう求めています。GATSの対象とされているのは、環境や文化、天然資源、飲料水、医療、教育、社会保障、交通運輸、郵便、および自治体による各種サービスをも含む公共サービス全般を始め、想像し得る限りすべてのサービス部門です。GATSはまた、各国のあらゆる規制、ガイドライン、補助金・助成金、許認可の基準と制限、外資規制、需給調整、部品の現地調達比率規制などを含む、労働関係法から消費者保護のための施策に至る実質的に全ての行政措置を制限しています。・・(中略)…現在、WT0で行われている新たなGATS交渉は、以下のようなルールを確立することで、企業による公共サービスの乗っ取りをさらに促進することを目指しています。

一、国内規制に関するGATS第六条を拡張することにより、環境や健康、消費者保護、およびその他の公共の利益に関する基準を維持または新設する政府の権限に、新たに厳格な制約を課すこと。この提案では、全ての国内措置が「貿易に対する制限が最も少ない措置」であることを証明する義務を各国政府が負うとしている(いわゆる「必要性についての要件テスト」)。ここでは、このような国内措置が、財政面や社会、技術、その他の面への配慮上、必要である措置であるかどうかは考慮されない。

二、公共事業や自治体サービス、および社会保障プログラムヘの公的資金の投入を制限すること。この提案では、政府調達と政府補助金にWTOの内国民待遇の原則を適用することにより、各国政府に対し、公共サービスに振り向けられている公的資金を、外国資本のサービス関連民間企業に直接振り向けるよう要求している。

三、各国政府に対し、外国のサービス関連企業に無制限の市場アクセスを与えることを義務付けること。この提案では、外国企業の提供するサービスの量あるいは規模が環境と社会に与える影響に考慮することを認めていない。

四、非関税の国際電子商取引を促進するための新しいWTOルールによって、外国での商業拠点の設立を容認することを通じ、教育や健康および水などを含む全ての分野について、サービス関連企業に各国市場へのアクセスを保障するプロセスを加速すること。これが実現すれば、特に第三世界の国々において、多国籍企業に対する迅速かつ不可逆的な市場アクセスが保障されることになる。

 この新しいGATS体制から最も恩恵を受けるのは、自らの商業基盤を拡大し公共サービスを民間企業の市場にしようと意気込んでいるサービス関連企業です。サービス産業は、新たな世界経済において最も急速に成長している分野であり、中でも健康、教育、水といった部門は、全ての「サービス」部門の中でも最も儲けの大きい部門になりつつあります。世界全体で、医療サービスは年間にして三兆五千億ドル規模の市場であると試算されており、同様に、教育は二兆ドル規模、水は…兆ドル規模の市場だと試算されています。アメリカに本杜をおく世界最大の医療営利法人コロンビア/HCAの最高経営責任者は、医療分野が航空産業やボールベアリング産業と全く同様のビジネス分野であると主張し、北米にある全ての公立病院を破滅に追い込むことを誓っています。メリルリンチなどの証券会社は、世界中の公教育が今後10年間で民営化されるだろうと予測し、そのプロセスにおいて莫大な利益が生み出されると断言しています。一方、フランスのヴィヴェンディ社やスエズ・リヨネーズ・デゾー社などの水関連の巨大会社は、世界銀行と連携して、第三世界の数多くの政府に水サービスの民営化を強制しようとしています。これらの多国籍企業は、アメリカのサービス産業連合(CS1)や欧州サービスフォ'ラム(ESF)のような強力な圧力団体を通して、実質的にGATS2000交渉の議題を設定する立場にあったのです。
 もし、これら多国籍企業の目的が達成されれば、この企業のためのGATS2000アジェンダは、国連世界人権宣言および付属の規約と憲章で保障されている基本的な社会権を正面から攻撃するものとなることは間違いありません。WTOの国際貿易ルールによって、外国資本の営利法人が公的資金を活用し、国公立の病院や学校を乗っ取ることができるようになるだけでなく、健康や教育の基準についての規制が切り崩されることになるでしょう。外国資本の営利法人の支店は、全てのWTO加盟国において保育や社会保障、および刑務所などの分野に進出することが可能になるでしょう。私たちの公園、野生生物、および古代原生林は全て、「サービス」関連グローバル企業の資源開発競争の対象とされるかも知れません。一方、建設工事、下水、ゴミ処理、公衆衛生、観光、および上水道サービスなどに関わる自治体との契約についても、外国資本の企業に無制限のアクセスが与えられなければならなくなるでしょう。
 多くの第三世界の国々にとって、人々の基本権利がこのように侵害されるのは初めてのことではありません。…中略…北と南の両方で、コモンズ(共有財産)と民主主義に対する世界規模の攻撃を開始させるものとなるでしょう。WT0の法的強制力を備えたメカニズムの存在により、このアジェンダは、確実な実施が保障されているだけでなく、不可逆的な効果を持つことになるでしょう。「GATSの攻撃を止めさせる」べき時がやって来たのです。
 したがって私たちは、私たちの政府に対して、GATS200O交渉を直ちに一時停止(モラトリアム)し、この交渉に当てられるはずだった今後の2年間を、以下の課題を実現するための期間とするよう要求します。
〔a〕全てのWTO加盟国において、現行のGATS協定の影響と、GATS2000交渉で提案されている新ルールが各国内の社会・環境・経済に関する法規制、政策、および政府プログラムに与える影響について、市民グループの参加の下に、十分かつ完全なアセスメントを実施すること。
〔b〕新しい世界経済において、世界人権宣言と関連の国連規約および憲章で定められた市民の基本的権利と基本的ニーズを保障するために、政府が担うべき公共サービスを提供する役割と責任を再確認すること。
〔C〕医療の質に関する基準や交通安全基準など、公共の利益を守るための法律や政策および政府プログラムを劣化させる権限を外国政府や多国籍企業に与えているGATS第六条、および国内規制に関する作業部会などを廃止することにより、現行のGATSルールに備わった過大な権限を縮小すること。
〔d〕貿易と投資の国際ルールによって脅威にさらされるかも知れない公共サービス(たとえば、医療、教育、社会保障、文化、環境、交通、住宅、エネルギー、水)を守るための厳格なセーフガードを要求する政府の権利を保障すること。
〔e〕人々の支払能力ではなくニーズに応じて公共サービスを提供できるようにすることで、世界共通の政府の義務(上記〔b〕参照)が遂行されるよう、特に南の国々の政府に対して、具体的なインセンティブと財源を提供する二と。
〔f〕国境を越えたサービスについて、あらゆる国際貿易・投資ルールの今後の交渉、および各国政府の提案作成の両プロセスに市民組織が効果的に参加するためのメカニズムを開発すること。
〔g〕環境と天然資源の保全、健康の保護と安全の確保、貧困の解消、および社会福祉の保障のための法規制を制定し、施行する政府の権限と責任を保障すること。
 最後に、私たちは私たちの政府に対し、IMFや世界銀行、およびその他の多国間開発銀行が公共サービス、特に教育や健康および水の分野の公共サービスを民営化するよう途上国にかけている圧力を全てストップさせるよう要求します。
この声明には世界各国のNGOなどの市民グループ以外にも、PSI(国際公務労連)などの大手労働組合が賛同している

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